なぜ,死刑を廃止しなければならないのか N弁護士

2009年09月17日

なぜ,死刑を廃止しなければならないのか。それは,死刑が「人殺し」だからです。「
人殺し」はどの国でも重大な犯罪であり,それは,国家の名においても正当化すること
はできません。わが国は,憲法9条で戦争を放棄し,国家の名による戦争というもう一
つの「人殺し」を許しておりません。それは,約310万人の自国民ばかりか,膨大な
他国民をも殺戮した戦争の惨禍を経験した反省に基づくものだからです。わが国と一緒
に枢軸国として戦ったドイツとイタリアは,憲法で,もう一つの国家の名による「人殺
し」である死刑を廃止しました。この二つの国は,敗戦後,独裁政権下における死刑の
濫用の反省から,いかなる人の「生命権」と「個人の尊厳」も保障するという考え方を
国の統治の目標にしました。そして,その考え方は,今では,欧州連合(EU、加盟4
3カ国)全体に及んでおります。EUにおいては,死刑は,「人殺し」という「残酷で
非人道的」な刑罰であって,正義ではないとされ,加盟国は全て死刑を廃止しておりま
す。

第2次世界大戦後,国連において,世界人権宣言に第3条(生命権条項)が定められ,
その後,死刑のより制限的な適用のため,いわゆる「死刑廃止条約」が1989(平成
元)年12月15日の国連総会で採択され,1991(平成3)年7月11日に発効し
ております。アムネスティ・インターナショナルの調べによると,毎年死刑廃止国が増
えており,2009(平成21)年7月8日現在,死刑存置国が58カ国に対し,死刑
廃止国はヨーロッパを中心に139カ国(法律であらゆる犯罪〔通常及び戦時〕につい
て・94カ国,法律で通常の犯罪について・10カ国,過去10年以上執行していない
事実上の廃止・35カ国)となり,今や世界の3分の2を超える国々が死刑を廃止して
いて,EUから発した死刑廃止の考え方が,世界の潮流となっています。そして,近時
,国連は,総会決議、国際人権(自由権)規約委員会勧告等により,死刑執行の停止や
死刑廃止に向けた行動を各国に求めております。

この世界の流れに反して,わが国では,死刑を存置しており,その存置の理由として,
国民世論(最近の世論調査で81.4パーセントの死刑賛成)が支持していること,被
害者遺族の被害感情を満足させること,死刑に犯罪抑止力があることなどを挙げており
ます。

しかし,まず,国民世論における圧倒的多数の死刑賛成という点については,死刑賛成
を選ばせ易いアンケートの聞き方,法務省の死刑密行主義による死刑情報の少なさ,自
分と関わりないところで死刑が執行されているのであれば問題ないという他人事のよう
な市民の感覚等が影響しております。

次に,死刑を廃止したら,死をもって償って貰いたいという被害者遺族の被害感情は,
充たされないという点については,そのような遺族に対して,「人殺し」を求める心の
働き(殺意)を持つことは,加害者に対して許されないと同様に遺族にも許されないこ
とを説得すべきです。死刑を廃止しているEU加盟国では,被害者遺族の被害感情は制
限されているのです。

さらに,死刑の犯罪抑止力の点については,死刑の維持または廃止と暴力犯罪の発生率
ないし発生件数との間の因果関係を見いだすことはできていないとされておりますし,
国連犯罪防止会議が1998年と1996年に実施した調査において「死刑が無期懲役
刑に比べてより大きい抑止効果を有するということを科学的に証明することはできなか
った。」としております。

わが国では,本年,裁判員制度が導入されたことを契機に,市民にとって,死刑が記号
状態から現実状態になりました。裁判員裁判では,市民は,裁判員として,自分が死刑
判決という「人殺し」命令を言い渡さなければならなくなったのです。その上に,言い
渡した死刑判決で死刑執行がされた後に,誤判だったことが判明した場合,裁判員は「
人殺し」をしたというトラウマを一生抱えて生きていかなければなりません。自分は反
対したのに多数決で死刑が言い渡された場合,反対者は守秘義務を課せられ一生反対し
たことを公表できずに悩むことになります。一般市民である裁判員にこのようなトラウ
マや悩みを抱かせないようにすべきです。特に最近,足利事件はDNA鑑定が不備だっ
たため誤判であったことが判明しました。そして,既に昨年10月に死刑が執行されて
しまった飯塚事件も同じ時期のDNA鑑定が有力な証拠となっていたため,誤判の虞が
出てきました。もし飯塚事件も誤判であることが判明したらどうするのでしょうか。わ
が国も英国の死刑廃止の切っ掛けとなったエバンス事件(死刑執行後に真犯人が出てき
た事例)の教訓を生かして,死刑を廃止するのでしょうか。

わが国も,以上述べてきたとおり,世界の潮流は死刑廃止に向かっていること,死刑存
置の理由がないこと,誤判で死刑が執行されたら取り返しがつかないことなどを真摯に
受け止め,頑なに死刑廃止に反対するのではなく,今こそ,EUその他多くの死刑廃止
国と同様に,死刑は「残酷で非人道的」な刑罰であって,不正義であることを認めて,
即刻死刑執行を停止し,死刑情報を公開し,死刑廃止を前向きに検討して行くべきです
。                                       
                                                                                                 以上


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