世論と死刑について  中村治郎弁護士

2009年09月21日

わが国では、世論調査で81.4%が死刑存置に賛成しています。
これは、確かに、死刑賛成を選ばせ易いアンケートの聞き方,法務省の死刑密行主義に
よる死刑情報の少なさ,自分と関わりないところで死刑が執行されているのであれば問
題ないという他人事のような市民の感覚等が影響しております。
しかし、下記に述べる英国とフランスの死刑廃止時と廃止後の世論調査の結果を見れば
、世論調査で死刑廃止を過半数にすることは不可能です。
このことは、わが国では、国民レベルばかりか、悲しいかな法曹レベル(人権擁護を目
標にしている弁護士においても!)、政治レベルにおいても当てはまります。
したがって、国民ばかりか法曹や政治家に対して、今後も、死刑は、「生命権」と「個
人の尊厳」という基本的人権を侵害し、「人殺し」という正義に反する制度であるとの
地道な啓蒙活動を続けて行く必要があります。
今時、「官僚主導」から「政治主導」への革命的な政変がおこりました。そして、これ
まで自民党政権(連立を組んでいた公明党は死刑廃止を求めていたのですが政権の中に
入ると死刑執行を止められませんでした。嘗ての村山政権(当時、社会党は死刑廃止を
求めていた。)も同様です。)のように「法務官僚」の言いなりになって、「民は之に
由らしむべくし之を知らしむべからず」という死刑密行主義のもとに死刑を執行してき
ました。今回の政変では、民主党は、その公約の中に死刑存廃問題を検討することを掲
げました。したがって、今後、法務官僚は、死刑密行主義を取り得なくなりました。こ
れを好機に、死刑執行停止を実現し、死刑廃止に向かう芽を育てて行く必要があります
。その意味で、当委員会は、全力を挙げて千葉景子法相をバックアップし、死刑廃止を
主導した英国のキャラハン内相やフランスのバダンテール法相のようにして行かなけれ
ばなりません。
                                                          記
英国では、約44年前の1965年11月8日、「謀殺法」が5年間の時限立法として
成立し、死刑が廃止された。その後20回以上もの死刑復活法案は何れも否決された。
この間の世論調査(民間調査機関による)は、次のようなものであった。
        存置    廃止
65年1月  70%   23%
       復活賛成  復活反対
66年9月  82%   15%
69年10月 85%   12%

このような世論の死刑復活の動向に関し、キャラハン内相は、1969年、死刑復活法
案を審議した下院において、「議会はときに、世論に先行して行動し、それを指導しな
ければならないときがある。刑罰問題に関しては、以前にも議会がこのように行動した
ことがまれではないが、この場合、議会は間違ってはいなかった。今日われわれは再び
、それを指導しようではないか」と答弁した。

フランスでは、約28年前の1981年10月1日「死刑廃止法」が成立し、死刑が廃
止された。死刑廃止を公約として掲げていたミッテラン大統領が死刑廃止論者のバダン
テール弁護士を法務大臣に任命し死刑廃止を実現した。当時の世論調査は、次のような
ものであった。
        存置    廃止
81年9月  62%   33% (ミッテラン政権の基盤である社会党支持者の5
9%が死刑存置であり、「特 に残虐な犯罪については、死刑を存置すべきである」と
するものは73%であった。)
       復活賛成   復活反対
82年    50%    38%
85年    65%    29%

国民議会で死刑廃止法案が可決される前日の9月17日、バダンテール法相は、国民議
会において、「明日、皆様のおかげで、フランスの正義はもはや人殺しの正義ではなく
なるでしょう」と演説した。

死刑に関する世論調査における国民の意識を分析すると、
①暴力犯罪の急増による治安に対する不安感
②殺人犯人の擁護に対する嫌悪感
③死刑の犯罪抑止力に対する素朴な信頼
に要約できます。

したがって、
①死刑廃止国の死刑廃止後の治安の状況
②殺人犯人に対して死刑を求めないでも納得している状況
③死刑の犯罪抑止力は証明されていないこと
など死刑情報を公開して国民を説得して行く必要があります。 
                                                                             
                             以上
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