本当に日本には死刑は必要なの?

中国政府の邦人に対する死刑執行通告に関する日弁連会長声明など

りす

4月2日、日弁連は、「中国政府の邦人に対する死刑執行通告に関する会長声明」を発表し、その後、4月6日、「中国政府の邦人に対する死刑執行及びさらなる死刑執行通告に関する日弁連コメント」を,4月9日、「中国政府によるさらなる邦人3名に対する死刑執行に関する日弁連コメント」を発表しました。 

ジャパンタイムスでも日弁連コメントについて紹介されています。http://search.japantimes.co.jp/mail/nn20100407a1.html

4月8日、日弁連会長声明について、香港にある民間衛星テレビ局のフェニックステレビの取材がありました。中国では、今回の死刑執行がほとんと報道されていないようですが、フェニックステレビは民間なので、放送できるとのことです。日本で、中国政府による日本人に対する死刑執行に対し抗議の声が起こっていることを報道するとのことです。福島社民党党首にも取材したようです。日弁連としては、会長声明や日弁連コメントの趣旨、国際人権法の観点からの死刑執行停止要請であることなどを説明しました。中国語による放送で、中国全土と世界各地(日本でもスカパーで観ることができるそうです)に放送するとのことで、9日に執行があったことから放送されたものと思います。中国政府による死刑執行に対し日本国内で抗議の声が上がっていることを、中国の人々に伝えるいい機会だったと思います。

1 中国政府の邦人に対する死刑執行通告に関する日弁連会長声明中国政府は、麻薬密輸の罪で死刑判決が確定している日本人男性に対し近く死刑を執行すると、3月30日までに日本政府に通告したとのことである。しかしながら、わが国が批准し、中国がすでに署名している国際人権(自由権)規約(以下「規約」という。)の第6条2項は、「死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。」としており、自由権規約委員会は、その一般的意見6(16)において「『最も重大な犯罪』 の表現は死刑が全く例外的な措置であることを意味するように厳格に解釈されなければならない」と述べている。「最も重大な犯罪」とは、少なくとも人の死という結果を伴う犯罪に限定されることを意味するのであって、現にイラン政府に対する自由権規約委員会の総括所見(1993年)において、自由権規約委員会は、規約第6条の観点から、経済犯罪や人の死という結果を伴わない犯罪に対して死刑を科すことは規約に反すると明言しており、さらに、タイ政府に対しては、死刑が規約第6条2項が示す「最も重大な犯罪」に限定されず、薬物の違法取引に適用されうることに懸念を表明している(2005年)。

自由権規約委員会や日本が理事国を務める国連人権理事会は死刑廃止を視野に入れて死刑の適用が可能な犯罪の削減を求めている。同様の事態がヨーロッパの国民について生じた場合、政府は前面に出て、自国民の処刑を避けるためにあらゆる手段を執るはずである。日本は死刑制度の存置国ではあるが、同様の犯罪の場合には無期刑が最高刑であり、死刑の対象とはされていない(覚せい剤取締法第41条2項)。国内法では死刑を科し得ない事件について、国際人権基準に明確に反する死刑によって日本国民の生命が奪われようとしている事態を座視するべきではない。

内閣総理大臣、官房長官はこの死刑の執行予定に関して既に「懸念」を表明されたと聞くが、当連合会は、わが国の政府に対し、規約第6条によって日本国民に保障された生命権を保護するために、死刑執行しないよう、中国政府に対して明確な要望をすべきことを求める。

2010年(平成22年)4月2日

日本弁護士連合会会長 

宇都宮 健児

2 中国政府の邦人に対する死刑執行及びさらなる死刑執行通告に関する日弁連コメント
2010年(平成22年)4月6日

日本弁護士連合会

本日、中国政府は、覚せい剤を日本に密輸しようとした罪により中国で死刑が確定していた日本人男性に対し、死刑を執行した。同政府は、さらに3名の日本人死刑囚についても同様に死刑を執行することを日本政府に通告している。

中国政府から執行通告がなされて以降、当連合会は、日本政府に対し、国際人権(自由権)規約第6条によって日本国民に保障された生命権を保護するために、死刑を執行しないよう、中国政府に対して明確な要望をすべきことを求めてきた。しかし、日本政府は、切迫した死刑の執行に対して懸念を表明するにとどまり、死刑の執行を止められなかったことは極めて遺憾である。

死刑は、人の生命を不可逆的に奪う究極の刑罰であって、その過ちは回復不可能なものである。それゆえ、国際人権(自由権)規約は、死刑の廃止が望ましいことを示しつつ、たとえ死刑を存置する場合においても、死刑は最も重大な犯罪についてのみ科することができるとし(第6条2項)、さらに、国際人権(自由権)規約委員会は、薬物関連犯罪をはじめとして、人の生命の死という結果を伴わない犯罪は「最も重大な犯罪」にはあたらないとの見解を繰り返し明らかにしてきた。しかも、死刑が執行された日本人男性は、裁判においても通訳の適格性について争っていたと伝えられており、国際人権(自由権)規約第14条に規定された公正な裁判を受ける権利をも保障されていなかった疑いが極めて強い。

今回の死刑執行は極めて遺憾であり、当連合会は、日本政府が毅然として、中国政府に対し、残る3名の日本人男性に対する死刑執行をしないよう明確な要望をすべきことを、重ねて強く求めるものである。

3 中国政府によるさらなる邦人3名に対する死刑執行に関する日弁連コメント

2010年(平成22年)4月9日

日本弁護士連合会

本日、中国政府は、麻薬密輸の罪により死刑が確定していた3名の日本人の死刑を執行した。中国政府による日本人男性の死刑執行は、4月6日の1名に対する死刑執行に続き、僅か4日間で4名にのぼるという事態となった。

当連合会は、本年3月末に中国政府から日本政府への死刑執行通告がなされて以降、死刑を未然に防ぐための明確な要望を行うよう、日本政府に対して求めてきた。そして、4月6日に1人目の死刑執行がなされた際には、重ねて、さらなる死刑執行を防ぐため明確な要望を行うよう、日本政府に強く要請を行ってきた。

こうした度重なる要請にもかかわらず、日本政府は、日本国民の生命に対する権利を守るための明確な要望をついに行うことなく、4名の尊い人命が失われるに至ったことは、極めて遺憾である。

本件のような薬物犯罪に対する死刑の適用が、国際人権法上認められないことは、先の声明で述べたとおりである。それに加えて、国連の拷問等に関する特別報告者は、中国に関する報告書において、死刑の適用範囲を縮小すること、すなわち経済犯罪や非暴力犯罪に対する死刑を廃止することを勧告している(2006年)。また中国は、1988年に拷問等禁止条約を批准しているが、国連拷問禁止委員会は中国政府に対し、死刑の適用を制限するために法の見直しを行うべきであると勧告している(2008年第4回中国政府報告書審査における総括所見パラグラフ34)。

中国政府は、自ら加入する人権条約上の義務を果たしていないのであって、これに対する日本政府の意見表明が内政干渉にあたらないことは、国連人権理事会における普遍的定期的審査をみても明らかである。

今後も、中国をはじめ、日本国外において日本国民が死刑に直面する事態が想定される。当連合会は、日本政府に対して、二度と同様の事態を繰り返さず、国民の生命権を守るために毅然とした態度で臨むよう、改めて強く要請するものである。

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