死刑廃止を推進する議員連盟の法案 死刑廃止への希望

2011年04月02日

死刑廃止を推進する議員連盟の法案 死刑廃止への希望


1 死刑廃止を推進する議院連盟(亀井静香会長、中川秀直会長代行、村越祐民事務局長)は、平成23年3月30日、臨時総会を開き、「重無期刑の創設及び死刑に処する裁判の評決の特例等に関する法律案」(以下、議連法案といいます)を正式に承認しました。

 この議連法案の「趣旨」は、「死刑に処する裁判をより慎重にするため重無期刑の創設及び死刑に処する裁判の評決の特例について定めるとともに、死刑制度調査会の設置及び死刑の執行の停止等について定める」ものです。
 総会で正式に承認されたことから、死刑廃止議連では、今国会への提出を目指し、議員立法を提出するための会派の機関承認の手続きや、党議拘束をはずすことも求めて、積極的に活動するとのことです。

 

2 この議連法案が、現時点における、日本での死刑廃止への希望です。この議連法案には下記のAからDまで4つの柱があります。
A 重無期刑の創設
 法定刑として死刑が規定されている罪について、死刑と無期刑の間の中間刑として、重無期刑を創設することとし、重無期刑については、仮釈放を認めません。ただし、死刑、重無期刑及び無期刑の言い渡しを受けた者に恩赦上申権を認めます(重無期刑は15年後、無期刑は10年後)。
B 死刑に処する裁判の評決の特例
 裁判における死刑に処する旨の刑の量定は、構成員の全員一致の意見によるものとします。そして、裁判における刑の量定について死刑に処すべき旨の意見が構成員の過半数の意見である場合であって、全員一致の意見により死刑に処する旨の刑の量定をすることができないときは、重無期刑に処すべき旨の意見が構成員の過半数の意見であるものとみなすこととします。
 この死刑に処する裁判の評決の特例は、第一審だけでなく、控訴審・上告審も対象とします。また全員一致要件は裁判員裁判・裁判官裁判の両方に適用されます。さらにこの法律の施行前にした行為に係る裁判についても、施行の際係属している事件等を除き全員一致要件を適用し、全員一致でないため死刑の量定をできない場合には重無期刑とします。
C 死刑制度調査会
 死刑制度の存廃その他の死刑制度に関する事項について調査を行うため、平成27年3月31日(施行日の3年後)までの間、各議院に死刑制度調査会を設けます。死刑制度調査会は、この調査を終えたときは、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、これを各議院の議長に提出するものとします。
D 死刑の執行停止
 平成28年3月31日(死刑制度調査会設置期間の満了の日から1年後)までの間は、死刑を執行しません。
 この法律は、平成24年4月1日から施行しますが、ただし死刑の執行停止は、公布の日から施行することとします。

 

3 議連法案を議論する際には、細かな法文の解釈よりも、重要なことがあります。何故、死刑を廃止するべきなのかということです。これは民主主義社会である日本にとっての社会の在り方、「法制度」の選択の問題です。
(1)まず日本の現在の死刑制度について十分な情報が公開されなければなりません。不徹底な刑場の公開では到底足りず、十分な情報が公開されなければ、市民が「法制度」を選択することなどできません。執行の対象者を選ぶ基準(無実を訴え続け再審請求の準備中の確定者に対する執行もありました)、執行の対象者の心身の状況(精神障がいにより心神喪失だったおそれはないのか)、絞首刑による具体的な執行方法(頚部が切断されるおそれはないのか)等が明らかにされる必要があります。
(2)また死刑制度に欠陥はないのかも検討されるべきです。わが国では,死刑事件について既に4件も再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),死刑事件においても誤判が存在したことが明らかとなっています。また死刑事件ではないものの,近時においても布川事件について再審開始決定がなされ,足利事件については再審無罪判決が言い渡されています。これらの事件以外にも,死刑事件である名張毒ぶどう酒事件や袴田事件は,えん罪である疑いが強く,日弁連は再審を支援しています。このような現状を考えるとき,えん罪により死刑判決を受け,死刑の執行までされてしまった例(例えば飯塚事件はその疑いがあります)がこれまでに一度もなかったとは,到底断言できません。日本においては、えん罪による死刑執行のおそれは現実のものなのであり,一旦失われた命は金銭で補償することはできず,どのようにしても回復することはできないのあって、このことは死刑制度の致命的な欠陥です。この点は、「法制度」としての欠陥なのであり、死刑制度を残し、犯罪を犯したことが明らかで自白している事件だけ執行すればよいというような議論は、実際の死刑制度の「運用」を考えれば無理であることは明らかです。否認事件は死刑の執行をしないのか、公衆の面前での犯罪以外には死刑を執行しないのか、そもそもどのような証拠があれば「犯罪を犯したことが明らか」と言うのか等々そのような「運用」は実際には到底できません。このような議論は、死刑制度の欠陥を解決することにはならないのです。
(3)民主主義社会である日本の法制度をどうすべきなのかを議論するのですから、人権の尊重など日本が価値観を共通にしているヨーロッパや国連などの動向も当然参考にすべきでしょう。何も外国のまねをしろと言っているのではありません。人権を尊重する民主主義社会である日本が自らの問題としてどうするのか議論する際、2009年現在,死刑存置国は58か国,死刑廃止国(10年以上死刑を執行していない事実上の廃止国を含む)は139か国であり世界の3分の2以上が死刑を廃止していること、実際に2009年に死刑の執行を行った国の数は,日本を含むわずか18カ国に過ぎないこと、国際人権(自由権)規約委員会から2008年日本に対し,「締約国は,世論調査の結果にかかわらず,死刑の廃止を前向きに検討し,必要に応じて,国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」との勧告がなされていることも、知っておいて良いことでしょう。
このように死刑廃止国が増えているのは,人権に関する国際法すなわち国際人権法が世界各国において尊重されるようになってきたからに他なりません。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)には,「すべて人間は,生命に対する固有の権利を有する。」と述べられており,「生命に対する権利」がすべての人に保障されるべきことが明確に宣言されていますが、この条約は、日本も批准しているのであって、まさに価値観を共通にしているのです。
(4)このような点について調査し議論をするための場を国会、すなわち衆議院と参議院に設けようというのが、議連法案にあるCの「死刑制度調査会」なのであって、極めて重要な存在です。調査し議論する期間は3年間とされています。また、「死刑制度調査会」は、「死刑制度の存廃」について調査するのですから、その間(3年間)と、「調査の経過及び結果を記載した報告書」が各議院の議長に提出され、各議院が死刑の存廃を議論するための1年間(議連法案には、「死刑制度調査会設置期間の満了の日から1年後」と書かれています)、合計4年間は死刑の執行を停止する必要があります。これが議連法案にあるDの「死刑の執行停止」です。死刑の存廃について国会で調査し議論している間に、死刑が執行されたのでは、冷静な調査や議論は到底できませんから、Dの「死刑の執行停止」は、Cの「死刑制度調査会」と一体のものとして理解される必要があります。

 

4 議連法案は、このように「死刑制度の存廃」について国会で議論しその間死刑の執行を停止しようというものですが、もう一つ大きな狙いがあります。それは「死刑に処する裁判をより慎重にするため重無期刑の創設及び死刑に処する裁判の評決の特例について定める」ということです。
(1)重無期刑は仮釈放のない終身刑であり、Aの「重無期刑の創設」には賛否両論大きな議論のあるところです。実は法務省は死刑制度は賛成し、終身刑については反対しています。仮釈放のない終身刑は人道に反する残虐な刑罰であるとか、「終わりのないマラソン」を受刑者に走らせるようなものであり処遇が困難であるとか言うのですが、法務省の本音は、終身刑を導入するとそれが「死刑廃止への一里塚」になってしまうのではないかと恐れているように見えます。議連側の狙いは、まさにそこで、「死刑に処する裁判をより慎重にするため」に重無期刑を創設し、さらには「仮釈放のない終身刑があれば死刑まではいらないでしょう」と市民にアピールするところに重点があります。ところで現行の仮釈放のある無期刑も法務省の運用によって既に「仮釈放のない終身刑」化しています。仮釈放を許すべき場合と許すことのできない場合のルールを明確にし、社会復帰を前提とした運用にもどす必要があります。仮釈放のない終身刑については、諸外国の例がありますが、「アメリカ合衆国における終身刑受刑者処遇上の諸問題」(法務総合研究所・研究部資料46 1999)では、「終身刑が受刑者に与える影響」、「終身刑制度が矯正施設に及ぼす影響」が検討されており、「終身刑受刑者が、他の受刑者集団と比較して特別危険であるとか、暴力的であるとは断定できないであろう」と記載されています(16頁)。また「イギリスにおける無期刑処遇」(法務総合研究所・研究部資料47 2000)では「終身タリフという名の終身刑」について報告されていますが、処遇について様々な工夫がなされています。ですから、日本でだけ、処遇について何の工夫もしないまま重無期刑の創設がおよそ不可能であるという議論はおかしいと思います。
(2)Bの「死刑に処する裁判の評決の特例」である全員一致要件も、「死刑に処する裁判をより慎重にするため」のものです。刑の量定の際、裁判員裁判でも裁判官裁判でも、第一審でも控訴審・上告審でも、死刑判決をより慎重にするためには、過半数で決するのではなく全員一致が望ましいことは明らかです。ただ「1人でも死刑に反対すれば仮釈放のある無期刑なのか」という批判がこれまでありました。これにこたえるため、議連法案は、死刑を求める者が全員ではないが過半数の場合には、Aで創設する重無期刑とするものです。その意味では、Bの「死刑に処する裁判の評決の特例」は、Aの「重無期刑の創設」と密接に関連しています。

 

5 議連法案のA、B、C、Dは、死刑判決を減らし、死刑執行を減らし、最終的には死刑制度そのものを廃止するための「一里塚」たるべきものです。死刑存置論者からの反論は当然のことですし、重無期刑創設についての批判も当然のことですが、日本の死刑制度の問題点を政党や裁判員裁判を担う市民やマスコミを巻き込みながら議論するためのたたき台として、非常に重要な意義があると思います。政治状況は混迷していますが、日本から死刑を実際になくすには、政治家のリーダーシップとそれを支える様々な市民運動や宗教家の活動、弁護士会の活動を重ねるなかで、実現していくしかありません。そういう意味で日本の民主主義が成熟していくなかで、死刑もなくなっていくのだと思います。
 あらゆる機会を捉えて議連法案について活発に議論し、現実的な死刑執行停止、死刑廃止を実現していく必要があります。


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