本当に日本には死刑は必要なの?

日弁連 死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける会長談話

りす
 日本弁護士連合会(日弁連)は、本日、「死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける会長談話」を発表しました。
 この談話は、平岡法務大臣の見解(「死刑の執行に慎重な姿勢を示すと同時に、死刑の存廃に関する国民的議論を開始すべきとの見解」)を民主党の「政策インデックス2009」を実現するものとして評価し、他方、藤村修官房長官の発言(「野田内閣において死刑を廃止する方針はまったくない」、「最後の最後には悩み抜いて、というのが法務大臣の役割だ。平岡法相にしっかりと自分の考え方を述べよと言いたい。」との発言)について、死刑執行への圧力を示したものにほかならず、民主党の政権公約にも反する甚だ遺憾なものと言わざるを得ないと批判するものです。
 またオウム真理教関係の刑事事件について全事件の判決が確定する見込みであると報じられていますが、社会的影響の極めて大きかった事件とはいえ、やはり死刑の執行は停止されるべきであると求めるものです。
 日弁連としては、これまで法務省、法務大臣に対し死刑執行停止を求め働きかけてきましたが、今後は、内閣に対しても、働きかける予定です。
 
 
死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける会長談話
 
当連合会は、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、本年10月7日、第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択した。
 
我が国では、刑罰制度として死刑制度を存置しているが、死刑はかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、更生と社会復帰の観点から見たとき、罪を犯したと認定された人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという根本的問題を内包している。かねてより、死刑制度については様々な問題点が指摘されているが、これまでに4件の死刑判決が再審により無罪となったことからも明らかなように、常に誤判の危険をはらんでおり、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかないという根本的な欠陥がある。さらに、現在の死刑執行方法である絞首刑については、去る10月31日に死刑判決が言い渡された大阪のパチンコ店放火殺人事件の審理において、自らも死刑の求刑及び死刑執行への立会いの経験を有する土本武司元最高検検事が「受刑者に不必要な肉体的、精神的苦痛を与える」もので憲法36条が絶対に禁止する残虐な刑罰に「限りなく近い」と証言している。同事件の判決も、「絞首刑には、前近代的なところがあり、死亡するまでの経過において予測不可能な点がある」として、その問題点を指摘している。
 
2010年(平成22年)現在の死刑廃止国(10年以上死刑を執行していない事実上の廃止国を含む。)は139か国、死刑存置国は58か国であって、世界の3分の2が死刑を廃止ないしは停止している。死刑存置国の中でも実際に死刑を執行している国は、更に少なく2009年(平成21年)が19か国、2010年(平成22年)が23か国にすぎない。死刑廃止が歴史的にも国際的にも大きな潮流であることは明らかである。
 
死刑を必要とする理由としてしばしば挙げられるのが凶悪犯罪の増加であるが、客観的な統計を見れば、殺人事件の件数は、2004年(平成16年)から4年間連続して減少し、2008年(平成20年)は少し増えたものの、2009年(平成21年)、2010年(平成22年)と2年連続で戦後最少となっている。
 
これらのことを考えるとき、今こそ死刑の執行を停止した上で、死刑の廃止についての全社会的議論を行うべきである。平岡法務大臣は、就任以来、死刑の執行に慎重な姿勢を示すと同時に、死刑の存廃に関する国民的議論を開始すべきとの見解を表明してきた。これは、民主党が「政策インデックス2009」において、「死刑存廃の国民的議論を行うとともに、(中略)死刑の存廃問題だけでなく当面の執行停止や死刑の告知、執行方法などをも含めて国会内外で幅広く議論を継続していきます。」と表明した内容を実現するものと評価できる。
 
ところが、報道等によれば、藤村修官房長官は、本年10月26日、衆議院内閣委員会において、「野田内閣において死刑を廃止する方針はまったくない」、「最後の最後には悩み抜いて、というのが法務大臣の役割だ。平岡法相にしっかりと自分の考え方を述べよと言いたい。」等と発言したという。これは、ようやく開始されようとしている死刑問題に関する国民的議論への道を閉ざし、死刑執行への圧力を示したものにほかならず、上記の民主党の政権公約にも反する甚だ遺憾なものと言わざるを得ない。
 
近時、オウム真理教関係の刑事事件について全事件の判決が確定する見込みであると報じられているが、社会的影響の極めて大きかった事件とはいえ、やはり死刑の執行は停止されるべきである。政府は、今こそ死刑の執行を停止した上で、死刑を巡る国民的議論を開始すべきであって、当連合会は、前記宣言の実現のため、国会の内外を問わず全社会的な議論の開始と、その間の死刑執行の停止を求め、活動を続けていくものである。
 
 
2011年(平成23年)11月16日
 
日本弁護士連合会
 
>>一覧へ戻る さる