本当に日本には死刑は必要なの?

日弁連 犯行時少年に対する死刑判決に関する会長声明

りす
日弁連は、本日、「犯行時少年に対する死刑判決に関する会長声明」を出しましたので、ご紹介します。宮川裁判官の反対意見を評価するものとなっています。
 
 
犯行時少年に対する死刑判決に関する会長声明
 
1999年(平成11年)4月、山口県光市で当時18歳1か月の少年が母子二人を死亡させた、いわゆる山口県光市事件の被告人の死刑判決に対する上告が、本日最高裁判所において棄却された。
 
この事件は、第一審、第二審が無期懲役判決を言い渡したところ、第一次上告審による破棄差戻しにより、差戻控訴審で死刑判決が言い渡されるといった異例の事態を経てきている。
 
1983年(昭和58年)7月8日、殺害被害者の数を重視したいわゆる永山最高裁判決以降、死亡被害者2名の事案で、犯行当時少年であった被告人に対する死刑判決が確定するのは初めてのことである。
 
死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会で採択され(1991年発効)、1997年4月以降、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本などの死刑存置国に対して「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。また、2008年10月には国際人権(自由権)規約委員会より、日本政府に対し、「政府は、世論調査の結果にかかわらず死刑廃止を前向きに検討し、必要に応じて国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」との勧告をしている。
 
また、死刑廃止国は着実に増加し、1990年当時の死刑存置国96か国、死刑廃止国80か国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)であったのに対し、現在は、死刑存置国57か国、死刑廃止国141か国となっており、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
 
加えて、1994年我が国で発効した「子どもの権利条約」が保障している少年の成長発達権及び同条約で引用されている少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルールズ)では「少年とは各国の法律制度の下において、犯罪について成人とは違った仕方で取り扱われている児童又は若者をいう」と規定され、「死刑は少年が行ったいかなる犯罪についても科してはならない」と規定しているところである。
 
このような状況の下で、最高裁判所が犯行時少年であった被告人に対し、犯行の計画性を否定し、被告人には前科がなく更生の可能性がないとは言えないとしながら、結果の重大性と犯行後の情状に加え、原審公判で不合理な弁解を述べており真摯な反省の情をうかがうことはできないなどとして、少年事件の特性を考慮することなく、死刑判決を確定させることは誠に遺憾であると言わねばならない。
 
本判決については、宮川光治裁判官が反対意見を述べ、死刑の結論について原審に差し戻すべきとの意見を述べ、また多数意見の立場での金築誠志裁判官による補足意見が付されている。最高裁判所における死刑判決に反対意見が付されたこと自体が異例なことである。
 
宮川裁判官の反対意見は、「精神的成熟度が少なくとも18歳を相当程度下回っていることが証拠上認められるような場合は、死刑判断を回避するに足りる特に酌量すべき事情が存在する」との判断基準を示したうえ、被告人の少年調査記録と2つの鑑定意見を踏まえ、原審裁判所は、被告人に対する父親からの暴力、母親の自殺などが被告人の精神形成にどのような影響を与えたのか、犯行時の精神的成熟度のレベルはどのようなものであったかを分析し、測る作業が必要であったとしている。また、被告人に対して精神的なサポートと適切な処遇がなされれば、「自己を変革し犯した罪と正しく向き合うよう成長する可能性があるとみることもできる」との見解を示している。これらの判示はまさに少年事件の特性を考慮しようとするものであり、少年事件の審理において欠かすことのできない態度であると言える。
 
当連合会は、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、昨年10月7日、第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択し、少年に対する死刑の適用は速やかに廃止することを検討すべきであると宣言した。本判決を契機として、改めて、政府に対し、犯行時少年に対する死刑を廃止するための抜本的な検討を求めるものである。
 
2012年(平成24年)2月20日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児
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