「アメリカ(テキサス州) 終身刑調査報告」法律新聞1998号

2013年06月29日

「アメリカ(テキサス州) 終身刑調査報告」
平成25年(2013年)6月21日 週刊法律新聞1998号
小川原優之 日本弁護士連合会死刑廃止検討委員会 事務局長
第二東京弁護士会

1 はじめに
 日本弁護士連合会(日弁連)は、大阪弁護士会とともに、今年2月22日から3月1日までの日程で、アメリカ(テキサス州)において仮釈放のない終身刑の調査をしてきました。参加者は、弁護士だけではなく、杉浦正健元法務大臣、研究者(青山学院大学、明治大学、龍谷大学、甲南大学)、ジャーナリスト、死刑廃止フォーラム90のメンバーら総勢21名でした。いずれ日弁連からも正式の報告書が出ますし、研究者の皆さんからも、研究成果の発表が予定されていると聞いていますが、ここでは私の個人的な報告をしたいと思います。

2 仮釈放のない終身刑について調査する理由
 仮釈放のない終身刑(以下、仮釈放のないものを終身刑といいます。仮釈放のある場合は、仮釈放のある無期刑と書きます)をめぐっては様々な立場・意見があります。死刑を残したうえで、終身刑を導入しようという意見もあれば(その場合、現在の仮釈放のある無期刑と死刑の間に終身刑が設けられることになります)、死刑を廃止(停止)して終身刑を導入しようという意見や、そもそも終身刑反対という意見(一生刑務所に閉じ込めておくのは残虐であるとか、出られる可能性がないと希望がなくなってしまい、刑務官の言うことも聞かず、処遇が困難になるといわれます)もあります。
 勿論、死刑についても賛成反対様々な意見があるわけですが、日弁連は、死刑のない社会が望ましいことを見据え、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかけています。①死刑はかけがえのない生命(生命に対する権利)を奪う非人道的な刑罰であること、②死刑は罪を犯したと認定された人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うこと、③裁判は常に誤判の危険があり、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかないこと(誤判で死刑が執行された疑いの指摘されている事件としては、福岡事件、飯塚事件などがあります)、④世界の3分の2の国は既に死刑を廃止(停止)しており死刑廃止が世界の潮流であること(韓国も15年以上死刑の執行をしていません)などが主な理由です。
 そして「死刑廃止について議論しましょう」と呼びかけたとき、死刑に替わる最高刑を検討せざるを得なくなります。私も多くの国会議員の方とお話をしましたが、「じゃあどうするんだ」と、すぐ言われます。その場合、現在の仮釈放制限期間10年の無期刑のほかに、例えば20年か30年仮釈放にできない無期刑をつくるということも案としてはありうるわけですが、全く賛同を得られません。やはり終身刑について考えざるを得ないわけです。そこで、実際に制度化されている終身刑の実態を調査する必要があるわけです。

3  テキサス州調査のテーマ
 アメリカは死刑存置国ですが、50州のうち18州では死刑を廃止しています。32州が死刑を存置しているわけですが、実際には2012年に死刑を執行したのは9州にとどまります(ですから死刑存置国といっても、死刑を執行したのは50州のうち9州だけです)。執行されたのは全部で43人ですが、全執行数の4分の3がアリゾナ州、ミシシッピ州、オクラホマ州、テキサス州の4州に集中しています。アメリカでは、死刑の言渡し数も執行数も激減しており、死刑はコストが非情に高いことや(日本ではあまりピンときませんが)、DNA型鑑定による「イノセンス・プロジェクト」などによって冤罪がどんどん明らかになってきていることによるものと言われています。
 ところでアメリカの中でも死刑の多いテキサス州で、2005年に仮釈放のない終身刑が導入され、その後死刑の言渡しや執行が減少しているという報告がなされています(テキサス州で最初に終身刑法案が提出された1999年頃には,アメリカ50州の中で47州が終身刑を導入しており、アラスカ州、テキサス州、ニューメキシコ州の3州が終身刑を導入していませんでした)。
  そこで終身刑導入前と導入後の実態をみてこよう、ということでテキサスに行くことになったわけです。

4 終身刑法案成立に至る経緯
   テキサス州で初めて終身刑法案が提案された1999年当初は,死刑と終身刑だけでなく,仮釈放のある無期刑を含めた3つの刑罰が提案されていましたが,法案が数回否決されたことから,反対派と協議し、2005年,無期刑は定めないこととして,終身刑法案が可決されたとのことです。
   エディー・ルーシオ・ジュニア氏(テキサス州議会上院議員。終身刑法案提案者)によれば、仮釈放なしの終身刑を導入した動機(提案当時、同氏は死刑廃止論者ではなかったそうです。現在は、死刑廃止論者になったそうですが)は「死刑事件については陪審員に対して,選択する刑種が多くあった方がいいと思った」ことと、被害者遺族にとっては「被告人が社会から確実に隔離されること」が重要であり、「終身刑は被告人を確実に社会に戻さない制度である」からとのことでした。上院議員のスタッフによれば、立法に至る背景事情として、無期が「予定されていた刑期より早く釈放されていたこと」があったようです。テキサス州では、仮釈放制限期間の長い無期刑(受刑者の収容数が多くなると仮釈放制限期間を短くすることもあったようですが、40年仮釈放を認めない法改正もなされていました)が既に立法化されていたようですが、再び社会に戻ることがないという確実性が必要であり、それがないと被害者遺族や陪審が同意しない、という背景があったようです。
  しかし、検察官や被害者遺族の立場からすると,終身刑が導入されれば、死刑判決が減ってしまうという懸念があり、当初は終身刑法案に反対していたようです。
  他方、多くの著名事件がDNA型鑑定などの新しい方法により,科学的証拠によって冤罪であることが分かり,死刑判決が破棄されて,無罪となっていたことから、弁護人の立場からしても,終身刑が導入されれば,鑑定などで無罪の人を救いだせるかもしれないということがあったようです。
   このように複雑な背景があるのですが、テキサス州で終身刑法案が実現した現実的な理由としては、死刑事案についてはスーパー・デュープロセス(通常の刑事事案に比べて死刑事案については、超適正手続の保障が必要とされています)がとられており、それには時間とコストがかかること。1992年に死刑の執行についてスタートから最終的な執行までのあいだの費用を調査したところ230万ドルかかるという結果が出ました(日本円にした場合、単純に1ドル100円とすれば、2憶3000万円です)。約250の郡があり、その中で州の負担分、郡の負担分とありますが、小さな郡ですと費用負担が大きくて経済が成り立たないといっていました。だったら40年間拘束する終身刑の方が安上がりだ、これが現実的な理由として挙げられていました。そして出てこれないという確実性があれば、必ずしも死刑にしなくてもいいという議論に繋がっていったようです。
 結局、死刑と仮釈放のある無期刑のあいだに選択肢としての終身刑を置こうとしたものの実現せず、最終的な立法として実現したのは、仮釈放のある無期刑をカットするということで、初めて終身刑の導入に成功したということでした。終身刑法案の作成は,刑事弁護協会と検察官協会が共同して行ったとのことです。
 なお上院議員は、「終身刑が導入されたとしても刑務所の安全が脅かされることはない」ということを強調されていました。これは日本でも言われる受刑者処遇の困難さの問題ですが、ルーシオ上院議員は「そういう報告は上がって来ていない」と話されていました。

5 死刑は減少したのか
  ロー・ウイルソン氏(ハリス郡ヒューストン次席検事)によれば、以前はテキサス州全体で156人死刑が執行されている中でハリス郡では37人も執行されており、「死刑の地」と言われていたが、終身刑の導入以来、大きな変化が生じ、死刑は減少したと言っていました。導入前の平均が11件だったとすると、導入後は2.3件になった、検察官自身が死刑を求刑しないですむようになっていると言うのです。簡単に言うと、外に出てくる可能性がないということであれば、死刑を求刑する必要がなくなったと言っていました。ロー・ウィルソンさんという方は紳士で上品な感じの方ですが、言っている中身は大変厳しい。仮釈放のある通常の無期刑の場合、検察官は死刑を求刑せざるを得ない。しかし仮釈放のない終身刑になれば社会に出てこないから、高いコストをかけて死刑を求刑しなくてもいい、という言い方です。選挙民の理解を得られるわけです。

6 終身刑受刑者の処遇
 ウィン刑務所を視察したのですが、この刑務所の中には、仮釈放のない終身刑の人たちが12人いるということでした。中はとても広くて、工場もあります。刑務所の工場作業で必要なトラックや、荷物を運ぶのに必要なトラックの運転も受刑者が行うということでした。受刑者が運転するトラックの後ろを刑務所の人が車でついていくそうです。刑務所の外には大きな農場があり(牛や馬の放牧、小麦の栽培などが行われているそうです)、模範囚は農作業をしているそうです。受刑者処遇にはG1からG5まで5段階のレベルがあり、開放的な処遇もなされているようです。
 他方、終身刑受刑者は、まず10年間はG3なんだということでした。G3というのは、「寮は許されておらず、二人収容の監房に入るのが原則」という段階です。その後、寮に入れるG2になるということです。G2は、刑務所内のどこで働くことも可能だが、所外での処遇は駄目という段階で、結局、終身刑受刑者は、刑務所の外には出れない、開放処遇の対象とはならないということです。
 終身刑受刑者も一般の受刑者と一緒の処遇であり、中級クラスの拘禁レベルだそうです。ただ、終身刑が導入された2005年から7年間しか経っていないので、どういう弊害が出て来るか、精神的な疾患がどう出て来るかとか、そういうことについてはまだ情報の把握がないということでした。
 刑務所の副所長は、「受刑者には正しい行動をするための動機づけが与えられなければならない。だけど、終身刑の人たちには動機づけが働かないんだ」ということを言っていました。いずれ外に出られるということがないと、正しい行動をしようという気にならない。そういう人たちをどう処遇するのか。隣の刑務所で3年前に逃走を試みた受刑者がいたが、5人中、4人は終身刑の人たちだったと言っていました。刑務所職員の立場からすれば、やはり管理は非常に難しい。それを強調していました。
 
7 考えたこと
 このようにテキサス州の終身刑は、死刑か仮釈放のない終身刑かであって、仮釈放のある無期刑は法案からカットされました。非常に厳しい立法と言わざるを得ませんが、実際に、終身刑導入後、検察官が死刑求刑を控えるようになり、死刑は減少しています。陪審員もあえて死刑を求めることは減ったことでしょう。しかし、終身刑導入以前であれば仮釈放のある無期刑であった人が、仮釈放のない終身刑になっている例もあると思われます。
 また終身刑受刑者は、一般の受刑者と同様の処遇を受けているそうですが、一生収容されているわけですから、特別な心理的ケアが必要だと思われますし、一定の場合には、農場で働くことを認める開放処遇も検討されてよいように思います。
 日弁連では、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止について全社会的議論をすることを呼びかけていますが、死刑を廃止する場合に、死刑に代わる最高刑として終身刑の導入も含めて議論すべきであると考えています。
 しかし終身刑導入について、異論反論は大歓迎です。テキサス調査に同行された朝日新聞編集委員の野呂雅之さんは、「日弁連は死刑を廃止し、そのかわりに終身刑を導入するよう求めている」。「ただ、当面は死刑と無期懲役の間に終身刑を導入し、量刑の選択肢を増やすのが現実的だろう」と書かれています(朝日新聞3月28日社説余滴「テキサスで死刑を考えた」)。
 日本の政治状況は混沌としていますが、私としては、死刑廃止(停止)と終身刑導入の検討を呼びかけたいと思っています。

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