年報・死刑廃止2014 日本弁護士連合会の死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける活動

2014年10月22日

日本弁護士連合会の死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける活動 2013
弁護士小川原優之

1 はじめに
 日本弁護士連合会(日弁連)は、「死刑廃止について議論をはじめましょう」と題するパンフレットを作成し配布しているのですが、そこには「日弁連の基本的立場」として、
○ 日弁連は,死刑のない社会が望ましいことを見据え,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかけます。
○ 人権を尊重する民主主義社会にとって,犯罪被害者の支援と死刑のない社会への取組は,いずれも実現しなければならない重要な課題です。
○ 政府は,死刑制度についての情報を積極的に国民に開示し,法務省に有識者会議を設置するなどして,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始するべきです。
 また,その議論の間は,死刑の執行を停止するべきです。
と記載されています。
 日弁連には、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける活動をするための委員会として死刑廃止検討委員会(委員長加毛修元日弁連副会長、顧問杉浦正健元法務大臣)があり、私はその委員会の事務局長をしています。以下、日弁連の2013年9月から2014年8月にかけての活動の報告をしたいと思いますが、意見にわたる部分はすべて私見です。

2 法務大臣への死刑執行停止要請活動及び死刑執行に対する抗議活動
 日弁連は、死刑の執行がなされる都度、法務大臣への「死刑執行に強く抗議し,死刑執行を停止し死刑廃止について全社会的議論を開始することを求める会長声明」を出しています。
 2013年9月12日東京拘置所において1名、同年12月12日東京,大阪の各拘置所においてそれぞれ1名、2014年6月26日大阪拘置所において1名に対し死刑が執行されているのですが、いずれの死刑執行に対しても、同日付で会長声明を発表し、抗議の意思を明らかにしています。
 また全国各地の弁護士会も抗議声明を出すようになってきており、例えば2014年6月26日の死刑執行に対しては、東京、第二東京、横浜、埼玉、茨城県、大阪、兵庫県、和歌山、愛知県、広島、岡山、島根県、福岡県、宮崎県、仙台、福島県、札幌、香川県の各弁護士会が抗議声明を出しています。

3 国会議員への要請活動
 死刑廃止についての全社会的議論の呼びかけに当たり,国会議員の理解が必要不可欠なことは言うまでもありません。また,政府は,世論調査の結果等を根拠に死刑存置の姿勢を維持していますが,死刑の存廃は世論調査の結果のみにより決まるものではなく,諸外国の例にもあるように,死刑のない社会が望ましいと考える政治家(国会議員)のリーダーシップも期待されるところです。
 そこで日弁連では、全国各地の弁護士会に対し、地元選出の国会議員への要請活動を行うように依頼しており、各地で取り組まれています。今後、東京でも行う予定です。
 また2013年12月11日、「ひまわり会」(自由民主党法曹有資格者の会)において,「死刑制度の在り方に関する勉強会」が開催され,講師として,杉浦正健元法務大臣(委員会顧問)が出席しました。私も出席したのですが、保岡興治(やすおか おきはる)元法務大臣や若手の国会議員も参加しており、活発な意見交換が行われました。

4 世論調査に関する活動
 死刑制度に関する政府の世論調査は,これまで1956年から2009年までの間合計9回実施されていますが、1989年以降5年ごとに実施されていることから,今年2014年にも実施されることが正式に決定されています。
 しかし日弁連が、社会調査の専門家に従来の政府の世論調査について分析を依頼したところ、政府の世論調査には多くの問題点があることが明らかとなりました。そこで日弁連は、政府の世論調査の内容が国民の死刑制度に関する意識をより正確に把握できるものとなり,その回答結果がより客観的に評価されるよう,「死刑制度に関する政府の世論調査に対する意見書」を2013年12月11日、公表しました。この意見書の内容については、法務省及び内閣府の担当者を訪れ、具体的に説明してきました。
 また日弁連意見書を踏まえ、「死刑制度に関する政府の世論調査の問題点」(http://www.morino-ohisama.jp/blog/2014/05/2044.html)を法律新聞(2014年5月23日付週刊法律新聞第2044号)に寄稿しましたので、ご覧になっていただければと思います。「死刑全面廃止論」について二者択一で問う選択肢が不適切であること、専門家の氏名や研究業績を公表しない不透明性、将来の死刑廃止について死刑か仮釈放のない終身刑かを問うべきであること、国民の8割以上が死刑制度を支持しているという評価が誤りであること、これまでのデータは業者によって全て廃棄されており国民が活用できないこと等について述べています。

6 終身刑に関する活動 韓国、テキサス州、カリフォルニア州の海外調査
(1)日弁連は、2012年に韓国、2013年にアメリカテキサス州、2014年にアメリカカリフォルニア州の調査をしてきました。
 ここではその調査結果を踏まえて、日本の死刑廃止について私見を述べてみたいと思います(詳しくは私の「日本の死刑廃止を考える 死刑か仮釈放のない終身刑か」2014年8月8日付け週刊法律新聞第2055号をご参照ください。 http://www.morino-ohisama.jp/blog/2014/08/post-72.html)。
(2)「死刑か仮釈放のない終身刑か」が問われています。
ア 韓国
  韓国では1998年から既に16年間も死刑の執行が停止されており、10年以上死刑の執行がないことから事実上の死刑廃止国であると言われています。その韓国でも、死刑廃止法案は成立していません。何故でしょうか。様々な死刑廃止法案が提案されているのですが、死刑存置を望む世論が平均すると6割程度はあり、簡単には韓国の議会を通らないようです。そこで現実的な法案として、死刑を廃止して仮釈放のない終身刑を導入する案が有力であるとのことでした(日弁連報告書「死刑制度に関する大韓民国調査報告書」参照)。
イ テキサス州
   他方、テキサス州では、毎年死刑が執行されています(2012年9名、2013年16名)。アメリカで最も多く死刑が執行されている州の一つです(アメリカ全体の2012年の死刑執行数43名、2013年の死刑執行数39名)。そのテキサス州では死刑に加えて2005年から、仮釈放のない終身刑が導入されています(日弁連報告書「テキサス州終身刑調査報告書」参照)。アメリカではえん罪の問題やコストの問題から死刑判決や執行数は大きく減っているのですが、検察官や弁護士は、仮釈放のない終身刑が導入され死刑が減ったと言っていました。
ウ カリフォルニア州
  またカリフォルニア州では、2007年から死刑は執行されていませんが、死刑確定者は700人以上います(2013年731名)。仮釈放のない終身刑も既に導入されているのですが、2012年に「死刑か仮釈放のない終身刑(受刑者から被害者遺族への賠償付き)か」が州民投票にかけられ、その結果は、死刑52%、仮釈放のない終身刑48%と接戦でした。州民投票を求めた人たちの話では、市民に対し、死刑制度の維持は非常にお金がかかる、仮釈放のない終身刑にして余ったお金を被害者遺族の支援や犯罪対策にあてるべきであると訴えかけたそうです。
エ このように事実上の死刑廃止国であり死刑廃止法案を可決しようとしている韓国でも、死刑の執行を繰り返しているテキサス州でも、死刑の執行を停止し死刑廃止を目指しているカリフォルニア州でも、「死刑か仮釈放のない終身刑か」が問われているのです。
 また「死刑か仮釈放のない終身刑か」は制度としての死刑を廃止するかどうかという場面で議論されているだけでなく(韓国やカリフォルニア州)、量刑の場面でも議論されており、死刑判決を減らす結果となったと言われています(テキサス州)。
 やはり日本でも、韓国やアメリカと同様、「死刑か仮釈放のない終身刑か」を問うことが、現実的な選択であると思います。
(3)日本の場合について考えてみましょう。
ア まず当然のことですが、死刑をやめて仮釈放のない終身刑にすれば、死刑制度の弊害をなくすことができます。
 死刑制度の弊害は、無実の人を誤って死刑執行した場合取り返しがつかないことだけではありません。長期間、死刑執行の恐怖の下で再審請求を強いられることにより心身を病んでしまうことや(袴田事件の場合)、無実を訴えている死刑確定者本人による再審を求める権利が保障されるべきであるにもかかわらず、死刑の執行によりその権利を奪われてしまうことも(飯塚事件の場合)、死刑制度の弊害と言うべきです。
 この弊害を除くには、制度としての死刑を廃止するしかないのです。仮釈放のない終身刑であれば、このような弊害はありません。
 イ 仮釈放のない終身刑でも、死刑と同様に、市民に対し安心感を与えることができます。
 テキサス州では仮釈放のない終身刑の受刑者が12人収容されているウィン刑務所を視察したのですが、中はとても広くて工場や農場もありました。終身刑受刑者も一般の受刑者と一緒の処遇であり、中級クラスの拘禁レベルだそうですが、刑務所の外に出る開放的な処遇は許されないとのことでした。
 またカリフォルニア州でも一般の受刑者の他に仮釈放のない終身刑受刑者を収容しているサン・クエンティン刑務所を視察したのですが、広いグランドがあり、多くの受刑者が一緒に様々な運動などをして過ごしていました。
 結局、仮釈放のない終身刑とは、広い刑務所の中で、ある程度の自由はあるものの、生涯、外には出られない制度なのであり、そして外には出られない制度であるからこそ、被害者遺族や市民に対し安心感を与えることができ、死刑の代わりになり得るというのです。
 「仮釈放のない終身刑でも、恩赦があるから大丈夫」などという説明は全く聞くことができませんでした。
 日本の場合、無期刑は、法律上は仮釈放があるものの、仮釈放になるのは年間ほんの数名であり、仮釈放になる受刑者の数よりも仮釈放にならないまま死亡する受刑者の数の方が多く、運用によって仮釈放のない終身刑と化しています。では日本ではもはや仮釈放のない終身刑を導入する必要はないのでしょうか。
 私は、そうは思いません。法律上仮釈放があれば、被害者遺族や市民は、やはり安心できないでしょう。他方、無期刑を言い渡された人でも、十分に反省し社会復帰可能な人もいるはずであり、そのような人はむしろ早期に仮釈放されるべきです。現在の仮釈放のある無期刑は、このいずれの要請にもこたえられていないのです。
 仮釈放のある無期刑と仮釈放のない終身刑の両方が必要であり、仮釈放のない終身刑ならば死刑に代替しうるのです。
 恩赦という制度は、すべての刑罰が対象となりますから、仮釈放のない終身刑受刑者も対象となるわけですが、実際には相当に困難なことと思われます。
(ウ)被害者遺族にとっても、死刑より仮釈放のない終身刑の方が、早期に事件を「終結」させることができます。
 アメリカでよく聞く言葉にCLOSUREロージャー)という言葉があります、死刑が執行されることによって、犯罪被害者遺族は事件に「幕引き」をすることができ「終結」させることができると言うのです。ところが、これは事実ではないと批判されていました。アメリカでも日本でもそうですが、死刑事件は被告人・弁護人が強く争うことから、裁判が長期化し、判決までに長い時間を要します。また死刑判決が出た後も、様々な争い方をすることから、実際に死刑が執行されるまで、20年も30年もかかり、その間、被害者遺族は「終結」することができないまま、事件に長い年月関わり合わざるを得なくなってしまうと言うのです。
 仮釈放のない終身刑であれば、早期に「終結」させることができるのであり、その方が良いと述べている被害者遺族もいました。日本でも、同様であり、もし死刑ではなく仮釈放のない終身刑であれば、裁判の期間は短縮され、刑が確定することによって、被害者遺族も早期に事件を「終結」させることができます。
(エ)死刑より仮釈放のない終身刑の方が、被害者遺族への贖罪ができます。
 終身刑受刑者が広い刑務所の中で働いて、そこで得たお金の一部を犯罪被害者への賠償に充てる制度も考えられて良いと思います。
 日本にはアメリカのように犯罪者が納付する特別賦課金等を原資とする犯罪被害者基金のような制度はありませんが、「財政難の折、日本でも、罰金や作業報奨金などを原資とする被害者基金が検討されてよい」との見解が有力に主張されています(「いま死刑制度を考える」所収「被害者支援と死刑」太田達也慶應義塾大学教授。慶應義塾大学出版会152頁)。私も、そう思います。
(オ)終身刑の方が、実際には死刑よりコストが削減されるのではないでしょうか?
 時々、被害者遺族の方から、終身刑に反対する理由として、「被害者は自ら支払う税金で殺人者を養っているのを腹立たしく思っている」と言われることがあります。確かに死刑を望んでいる被害者遺族の方からすれば、死刑制度を維持するためには税金を支払っても、終身刑のためには税金を支払いたくはないかもしれません。
 しかし一般の市民を前提に考えた場合、弊害の明らかな死刑制度をなくし、死刑と同様の安心感を与えてくれる仮釈放のない終身刑を導入してもコストが増えない(むしろ減る可能性がある)とすれば、仮釈放のない終身刑に賛成するのではないでしょうか。
 日本では、死刑と仮釈放のない終身刑とどっちがコストがかかるのかについて、実証的な研究はなされていないようです(「持続可能な刑事政策とは」所収「経済学の視点から見た刑事政策」慶應義塾大学中島隆信教授。現代人文社71頁)。
 ただ2014年4月7日に放送された「ビートたけしのTVタックル『死刑制度を考える』」で坂本敏夫元刑務官は、ご自分の経験から「受刑者は働いて国庫に100万位いれている。死刑囚には70万位かかる。働かせる方がいい。」と発言していました。働かないでいる死刑確定者より、働く受刑者の方が国庫の負担が軽いという趣旨です。
 すぐに死刑を執行すればコストはかからないだろうという乱暴な意見もあるかもしれませんが、しかしこれはえん罪の問題や、再審に時間を要することを考えれば、現実的な意見ではありません。死刑確定者の処遇はどうしても長期化するのであり、その間のコストは、坂本氏の指摘するように受刑者以上に(仮釈放のない終身刑以上に)かかることになります。
 また私は再審請求にも国選弁護制度が認められるべきである、少なくとも死刑確定者の再審請求の場合には、誤った執行のおそれを少しでも減らすため国選弁護制度が是非とも必要であると思います。この場合、国選弁護費用も国庫の負担となります。
 まして現在仮釈放のある無期刑は運用によって仮釈放のない終身刑化しています。仮釈放すべき無期刑と仮釈放のない終身刑を制度上はっきりわけ、仮釈放のある無期刑については早期の仮釈放を実現し、仮釈放のない終身刑は死刑の代替刑であることを明確にする方が、国庫の負担は減ると思います。
 私は、死刑ではなく、仮釈放のない終身刑を日本でも採用するべきであると考えています。

7 宗教界への働きかけ
 2014年2月27日、公益財団法人全日本仏教会開催の人権問題連絡協議会に委員会の杉浦正健顧問を講師として派遣し「死刑制度に対して仏教界はどう考えるか」というテーマで講演を行いました。

8 シンポジウム、勉強会の開催など
(1)「死刑廃止を考える日」
 日弁連は、できるだけ多くの市民と共に死刑制度の問題点を考えるために,毎年「死刑廃止を考える日」を開催しており、2013年11月には、映画「サルバドールの朝」を上映し、駐日スペイン大使館参事官からのスピーチをいただきました。
(2)シンポジウム「死刑を廃止したEUからのメッセージ」
 2014年3月12日、駐日英国大使と駐日EU代表部公使・副代表にご参加いただき、日本の死刑制度の廃止について力強いメッセージをいただきました。また、太田達也慶応義塾大学教授、井田香奈子朝日新聞論説委員、杉浦正健委員会顧問、新井宏明第一東京弁護士会「死刑に関する委員会」委員長をパネリストとしたパネルディスカッションを行いました。
(3)袴田事件に関する勉強会
 2014年2月18日、袴田事件弁護団事務局長の小川秀世弁護士による袴田事件に関する勉強会を行いました。ご承知のとおり袴田巌氏は、2014年3月27日、静岡地裁において、再審開始決定、死刑執行停止決定、拘置執行停止決定が出され釈放されました。 

9 全国犯罪被害者の会との対話
 日弁連の活動ではないのですが、全国犯罪被害者の会(あすの会)から2014年1月25日に開催された同会主催の「死刑制度を考えよう ~こんな判決でよろしいのですか~」のご案内を、委員会の事務局長としていただき、参加してきました。死刑廃止を呼びかけるに際しては、被害者ご遺族の声を聞く必要があると思いますし、またこちらの考えもお伝えしたいと思い、私の法律新聞の記事をあすの会のメンバーへお送りしています。
 今後も対話を積み重ねたいと思っています。

10 今後の活動
 これからも日弁連としては、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかけるため、政治家、マスコミ、宗教関係者、EUの皆さん、市民の皆さん等と連携しながら多様な活動を積極的に展開していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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