終身刑導入論 ―世論調査の結果「将来も死刑存置46.1% 将来は死刑廃止42.2%」、「死刑51.5% 終身刑37.7%」から考える 法律新聞第2080号

2015年02月06日

終身刑導入論 

― 世論調査の結果「将来も死刑存置46.1%  将来は死刑廃止42.2%」、「死刑51.5% 終身刑37.7%」から考える

弁護士 小川原優之

  はじめに 

   平成26年11月に実施された政府の死刑制度に関する世論調査の結果が公表されました。マスコミでは「死刑制度を容認80%  初の減少 なお高水準」などと報道されていますが、私はそれだけにとどまらず、今回の世論調査の結果には、今後の死刑廃止を求める運動に活かすべき内容が多く含まれていると思います。

  そこでまず、世論調査の結果の概要を少し詳しくご紹介し、次に死刑廃止派が思いのほか多くいることについて述べ、それを踏まえて終身刑導入論について述べたいと思います。

 

世論調査の結果の概要

 今回の世論調査の結果は、概要以下の通りです。

①「死刑制度に関して、このような意見がありますが、あなたはどちらの意見に賛成ですか。」(Q2)

死刑は廃止すべきである 9.7%

死刑もやむを得ない 80.3%

わからない・一概に言えない 9.9%

②「死刑もやむを得ない」と答えた方に「将来も死刑を廃止しない方がよいと思いますか、それとも、状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよいと思いますか。」(SQb2)

将来も死刑を廃止しない 57.5%

状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい 40.5%

わからない 2.0%

③「もし、仮釈放のない『終身刑』が新たに導入されるならば、死刑を廃止する方がよいと思いますか、それとも、終身刑が導入されても、死刑を廃止しない方がよいと思いますか。」(Q4)

死刑を廃止する方がよい 37.7%

死刑を廃止しない方がよい 51.5%

わからない・一概にいえない 10.8%

 

  将来も死刑存置46.1%  将来は死刑廃止42.2%

(1)そもそも死刑制度に関する政府の世論調査は何のために行っているのでしょうか?

 この世論調査は、死刑制度に関する国民の基本的な意識をできるだけ客観的に把握し、それを今後の政府の政策に反映させることにあるはずです。だとすると、前述した調査項目①(世論調査項目Q2)だけから「死刑制度を容認80% 」とする議論(「死刑制度を容認80% 」論といいましょう)は、死刑制度に関する国民の基本的な意識をできるだけ客観的に把握したものになっていません。

 せっかく世論調査が、死刑容認派に対し将来の死刑廃止について前述した調査項目②(世論調査項目Sb2)の質問をしているのに、それを全く無視しているからです。この「死刑制度を容認80% 」論は、あたかも日本国民は将来も未来永劫死刑を求め続けているとミスリーディング(誤導)するものであり、死刑制度を維持する働きをしていると言わざるをえません。

(2)調査項目②(世論調査項目Sb2)を含めて考えるならば、死刑制度に関する国民の基本的な意識はどのようなものなのでしょうか?

 「死刑もやむを得ない」(全体の80.3%)のうち「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」(40.5%)を全体の割合に置き直してみるには、全体80.3%に40.5%を掛け合わせればよいのですが、全体80.3%×40.5%=全体の32.5%になります。

  つまり将来は死刑を廃止してもよいという意見が、全体の32.5%いるわけです。これに「死刑は廃止すべきである」(全体の9.7%)を加えると、全体の32.5%+全体の9.7%=全体の42.2%となります。これを将来死刑廃止派(現在死刑廃止派を含む)と呼びましょう。

 他方、「将来も死刑を廃止しない」(57.5%)は全体の80.3%×57.5%=全体の46.1%ですから、結局、将来も死刑存置派は全体の46.1%になります。

  既にお分かりだと思いますが、 将来死刑存置46.1% 、将来死刑廃止42.2%ですから、その差はわずか4%しかありません。

 今回の世論調査によって示されている死刑制度に関する国民の基本的な意識は、日本も「将来」は死刑廃止があり得ることを示すものであり、私は、この結果は極めて重要だと思います。

 しかし残念ながらマスコミでは、私の知る限り、この点は十分には報道されていません。単純な「死刑制度を容認80%」報道は、日本国民は将来も死刑を求め続けているとミスリーディングするものといわざるを得ません。

(3)とくに今回の世論調査によれば、「死刑もやむを得ない」(全体の80.3%)のうち、20~29歳については、「将来も死刑を廃止しない」(46.2%)、「状況が代われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」(53.8%)となり、将来死刑廃止派の方が多くなっています。これは若い世代には「希望」をもてることを意味しています。

 

  死刑51.5% 終身刑37.7%

(1)しかし、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」といっても、どのように「状況が変われば」死刑を廃止してよいのか、必ずしも明らかではありません。様々な状況の変化があり得るのかもしれませんが、私は、仮釈放のない終身刑導入も「状況」の変化の一つだと思います。

  今回の世論調査に際し、対象者に事前に読んでもらった文書には、「現在、死刑の次に重い刑は、一生刑務所に入らなければならない『無期懲役』ですが、仮釈放される場合があります。これに対して、仮釈放される場合がない、いわゆる『終身刑』は、現在の日本にはありません。」と記載されています。その上で、「もし、仮釈放のない『終身刑』が新たに導入されるならば、死刑を廃止する方がよいと思いますか、それとも、終身刑が導入されても、死刑を廃止しない方がよいと思いますか。」(Q4)と聞いているのですから、終身刑導入が「状況」の変化であり、「将来的には、死刑を廃止してもよい」という判断につながっているのだと思います。

(2)ところで世論調査の結果、終身刑が導入されれば「死刑を廃止する方がよい」37.7%(終身刑派)、終身刑を導入しても「死刑を廃止しない方がよい」51.5%(死刑派)なのですから、死刑派の勝ちで、死刑存置に決まり、というようなことなのでしょうか?

    カリフォルニア州では、2007年から死刑は執行されていませんが、死刑確定者は700人以上います(2013年731名)。仮釈放のない終身刑も既に導入されているのですが、2012年に「死刑か仮釈放のない終身刑(受刑者から被害者遺族への賠償付き)か」が州民投票にかけられ、その結果は、死刑52%、仮釈放のない終身刑48%と接戦でした。

 日本の数字と似ているとは思いませんか? 日本でも、「仮釈放のない終身刑+受刑者から被害者遺族への賠償付き」と問えば、死刑派はもっと減り、終身刑派が増加し、もしかしたら逆転していたかもしれません。

 もちろん日本とアメリカでは制度が違いますから、一概には言えませんが、「将来も死刑存置46.1%  将来は死刑廃止42.2%」とその差はわずか4%しかないのですから、設問によっては、逆転の可能性が十分にあると思うのです。

 

5 終身刑導入論

(1)カリフォルニア州で州民投票について聞いても、終身刑支持者の人は「終身刑が良い制度だ」と言っているわけではありません。「死刑よりはましだ」と言っているだけです。ですから終身刑導入の前提として、死刑制度の弊害が強調されていました。アメリカでは死刑制度の維持には非常にコストがかかること、えん罪が多発していることなどが強調されていました。

 日本ではどうでしょうか?私は、日本の場合、えん罪・誤執行のおそれが高いことが死刑制度の最大の弊害だと思います。

 日本では死刑が確定したあとに再審によって無罪となった事件がこれまでに4件あります。免田事件(23歳で逮捕、再審無罪まで約34年6カ月)、財田川事件(19歳で逮捕、再審無罪まで約33年11カ月)、島田事件(25歳で逮捕、 再審無罪まで約34年9カ月)、松山事件(24歳で逮捕、再審無罪まで約28年7カ月)ですが、日本の刑事裁判の手続きではこのように信じられないほど長時間を要するのです。

 これらは1980年代に再審が開始されており、今から30年も「昔」の話しです。当時、死刑制度を見直すべきではないかという議論に対し、「誤判のないように最大限の努力をするべき」ではあるが、誤判はどの刑罰にも可能性としてあり得るのであり、死刑についてだけ廃止を主張するのは短絡的である、との反論がありました。

 しかし本当にそうでしょうか。

 死刑の場合には、懲役や罰金など他の刑罰のえん罪・誤執行とは質が全く異なります。自分の身に置き換えて考えてみれば、すぐ分かることでしょう。自分がえん罪で逮捕され、死刑を誤執行されるのと、懲役を誤執行されるのとでは、全く違います。懲役の誤執行ならば、時間をかけて再審裁判を争い、無罪を勝ち取れば刑事補償がもらえます。死刑の場合には、いつ執行されるかも分からない日々を過ごし、執行されてしまえばそれでもうお終いです。家族には死後再審を求める権利はありますが、それが誤執行された本人に何の償いになるのでしょうか。

 誤判の危険性は、4件の再審無罪から30年経過した「今」も同様です。昨年袴田事件(30歳で逮捕、再審開始決定で釈放されるまで約48年)が大きく報道されましたが、

まだ裁判は続いています。飯塚事件では、無実を主張し、再審請求の準備中であったにもかかわらず、死刑確定からわずか2年で死刑が執行されてしまいました。

 第2、第3の袴田事件、飯塚事件を出さないためには、「誤判のないように最大限の努力をする」だけでは到底足りないのであり、弊害の明らかな死刑制度そのものを廃止するしかないのです。

(2)終身刑には勿論問題も多くあります。

 終身刑が非人道的であり、処遇困難であることが指摘されています。終身刑は「終わりのないマラソンを走らせるようなもの」であり、「緩慢な死刑」だという批判です。

 しかし実際の絞首刑と比較してみれば、終身刑と絞首刑とどちらが「非人道的」かは明らかだと思います。繰り返しになりますが、自分の身に置き換えて考えてみてください。

 また処遇困難だと言っても、処遇を人道的に改善する工夫の余地はたくさんあると思いますし、現在は全く機能していない恩赦制度についても、権利化をすすめるなどの工夫はあり得ると思います。

 コストの問題も指摘されています。

 死刑を廃止して終身刑を導入すれば、コスト高になると言うのです。しかし、この意見は、現在の死刑確定者が拘置所の単独室で収容されていること(コストが高くつきます)、他方仮釈放のない終身刑の場合は刑務所で集団処遇になること(コストが安くなります)を全く無視しており、実証的なコスト計算とはいえません。死刑確定者の平均拘禁期間(執行まで)の単独室での個別処遇のコストと終身刑の平均拘禁期間(死亡まで)の共同室での集団処遇のコストを、条件設定したうえで比較すれば、終身刑の方がむしろ安いという意見もあります。

 問題はむしろ、政府が死刑制度の維持に要する費用を全く開示していないことです。死刑台を維持管理し、そのための職員を配置し、死刑確定者を昼夜間独居拘禁しているわけですが、どれほどの国費が費やされているのでしょうか?死刑確定者128名(平成26年12月現在)のうち90名以上が再審請求しているようですが、拙速な裁判や死刑執行は勿論ゆるされません。再審裁判のための裁判官・検察官のコストは膨大だと思います。私は、再審請求にも国選弁護制度が採用されるべきだと思うのですが、もし実現すればもっとコストがかかることになります。

 

6 現実的な議論を

 超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長・亀井静香元金融担当相)が、終身刑に当たる「重無期刑」を創設する法案を国会に提出する方向で調整していることが報道されています。法案は、死刑と仮釈放のある無期刑の間の中間刑として、仮釈放を認めない重無期刑を創設し、死刑判決は裁判官と裁判員の全員一致の場合に限定することが柱となっています。亀井氏は取材に対し「いきなり死刑廃止に持っていくのは難しい。重無期刑を一里塚として、廃止の流れをつくっていく」と語ったそうです(時事通信2014/10/27

 また現在の無期刑は、法制度上は10年を経過すれば仮釈放可能なのですが、実際には、仮釈放になる例はまれで、刑務所で死亡する人が多く、仮釈放のない終身刑化していることが指摘されています。

 しかし法律上仮釈放があれば、被害者遺族や市民は、やはり安心できないでしょう。他方、無期刑を言い渡された人でも、十分に反省し社会復帰可能な人もいるはずであり、そのような人はむしろ早期に仮釈放されるべきです。現在の仮釈放のある無期刑は、このいずれの要請にもこたえられていないのです。

 仮釈放のある無期刑と仮釈放のない終身刑の両方が必要であり、仮釈放のない終身刑ならば死刑に代替しうるのです。

 世論調査の結果は、「将来も死刑存置46.1%  将来は死刑廃止42.2%」、「死刑51.5% 終身刑37.7%」でした。

 いまこそ国会議員の皆さんや、政府法務省の責任で、死刑廃止と終身刑導入について、議論をすべきときだと思います。

以上
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