日弁連の死刑廃止と代替刑の検討を求める宣言について

2016年12月04日

日弁連の死刑廃止と代替刑の検討を求める宣言について
弁護士小川原優之
(「法と民主主義」12月号掲載予定。二弁会員。オウム真理教教祖の一審での弁護人であり、日弁連死刑廃止検討委員会事務局長。二弁副会長当時、犯罪被害者支援を担当。)

1 はじめに
 日本弁護士連合会(日弁連)は、2016年10月7日福井で開催された第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択しました。この宣言は、刑罰制度全体の改革を求めるものですが、死刑制度とその代替刑について、次のように述べています。
①日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであること。
② 死刑を廃止するに際して、死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑を検討すること。代替刑としては、刑の言渡し時には「仮釈放の可能性がない終身刑制度」、あるいは、現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重し、仮釈放の開始期間を20年、25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入を検討すること。ただし、終身刑を導入する場合も、時間の経過によって本人の更生が進んだときには、裁判所等の新たな判断による「無期刑への減刑」や恩赦等の適用による「刑の変更」を可能とする制度設計が検討されるべきであること。
 このように日弁連の宣言は、死刑廃止と代替刑の検討をあわせて求める宣言(以下、福井宣言といいます)なのです。
 私は、日弁連死刑廃止検討委員会の事務局長をしており、福井宣言の内容について述べたいと思いますが、意見にわたる部分は私見であることをお断りしておきます。

2 日本における死刑の現状
 日本には死刑確定者が約130名いますが、2012年7名、2013年8名、2014年3名、2015年3名、2016年3名(12月5日現在)と、毎年死刑の執行が繰り返されています。
 福井宣言が出された後も、11月11日死刑が1名に対し執行されました。金田法務大臣をはじめ歴代の法務大臣は、「国民世論の多数が,極めて悪質,凶悪な犯罪については,死刑もやむを得ないと考えており,多数の者に対する殺人や,強盗殺人といった凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況に鑑みれば,その罪責が著しく重大な凶悪犯罪を犯した者に対しては,死刑を科することもやむを得ないものであって,死刑を廃止することは適当ではないと考えています。」と述べています。
 確かに内閣府が2014年11月に実施した世論調査によれば、「死刑もやむを得ない」という回答が80.3%であり、その理由は「死刑を廃止すれば,被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」を挙げた者の割合が53.4%,「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」を挙げた者の割合が52.9%となっています。
 このような中で、本当に日本から死刑をなくすにはどうすればよいかを考える必要があります。

3 世論調査の分析
 内閣府の世論調査によれば、「死刑もやむを得ない」(全体の80.3%)と答えた者に,将来も死刑を廃止しない方がよいと思うか,それとも,状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよいと思うか聞いたところ,「将来も死刑を廃止しない」と答えた者の割合が57.5%,「状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよい」と答えた者の割合が40.5%となっています。
 また仮釈放のない「終身刑」が新たに導入されるならば,死刑を廃止する方がよいと思うか,それとも,終身刑が導入されても,死刑を廃止しない方がよいと思うか聞いたところ,「死刑を廃止する方がよい」と答えた者の割合が37.7%,「死刑を廃止しない方がよい」と答えた者の割合が51.5%となっています。
 政府は、「国民世論の多数が,極めて悪質,凶悪な犯罪については,死刑もやむを得ないと考えて」いることを死刑存置の根拠としていますが、このように世論は、迷い考えているのです。
 この点について、福井宣言は、「死刑についての情報が十分に与えられ、死刑の代替刑も加味すれば、死刑廃止が必ずしも国民世論の少数になるとは限らない。」、「私たちは、世論に働き掛け、これを変えるための努力を続けなければならないが、そもそも死刑廃止は世論だけで決めるべき問題ではない。世界の死刑廃止国の多くも、犯罪者といえども生命を奪うことは人権尊重の観点から許されない等との決意から、世論調査の多数を待たずに死刑廃止に踏み切ってきた。」と述べています。

4 犯罪被害者と遺族の被害感情
 世論調査によれば、市民が死刑に賛成している理由として、「死刑を廃止すれば,被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」ことが挙げられています。
  福井宣言も、「犯罪により命が奪われた場合、失われた命は二度と戻ってこない。このような犯罪は決して許されるものではなく、遺族が厳罰を望むことは、ごく自然なことである。」と述べていますが、一方では死刑には、「基本的人権の核をなす生命に対する権利を国が剥奪する制度であり、国家による重大かつ深刻な人権侵害である」こと、「刑事司法制度は人の作ったものであり、その運用も人が行う以上、誤判・えん罪の可能性そのものを否定することはできない。そして、他の刑罰が奪う利益と異なり、死刑は、生命という全ての利益の帰属主体そのものの存在を滅却するのであるから、取り返しがつかず、他の刑罰とは本質的に異なる」こと、「死刑は、罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪う刑罰である」こと等、様々な問題点があることも指摘しています。
 私は、被害者やご遺族が死刑を望むことは無理からぬものだと思いますが、死刑という刑罰制度の存廃は、被害者と加害者を取り巻く社会全体で考えるべき問題なのだと思います。私たちが、人権を尊重する民主主義社会であろうとするとき、犯罪の被害者にも加害者にも、いずれの側についても、人権に配慮する必要があります。難しい課題ですが、社会全体の課題として、犯罪被害者の声に耳を傾け、被害者支援に取り組むとともに、死刑廃止を含む刑罰制度の改革を実現する必要があります。

5 犯罪と刑罰
 そもそも犯罪と刑罰をどう考えるべきなのでしょうか。
 福井宣言は、「生まれながらの犯罪者はおらず、犯罪者となってしまった人の多くは、家庭、経済、教育、地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至っている。そして、人は、時に人間性を失い残酷な罪を犯すことがあっても、適切な働き掛けと本人の気付きにより、罪を悔い、変わり得る存在である」、「このように考えたとき、刑罰制度は、犯罪への応報であることにとどまらず、罪を犯した人を人間として尊重することを基本とし、その人間性の回復と、自由な社会への社会復帰と社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の達成に資するものでなければならない。このような考え方は、再犯の防止に役立ち、社会全体の安全に資するもの」であると述べています。

6 2020年までに死刑制度の廃止をめざす
 死刑制度を廃止する国は増加の一途をたどっており(2015年12月末日現在、法律上及び10年以上死刑の執行をしていない事実上の死刑廃止国は、合計140か国と世界の中で3分の2以上を占めています)、また2014年12月18日、国連総会において、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、117か国の賛成により採択されました。このように国際社会の大勢は死刑の廃止を志向しています。
 日本では過去に4件の死刑確定事件について再審無罪が確定し、2014年3月には袴田事件の再審開始決定がなされ、袴田巌氏は約48年ぶりに釈放されました。
 このような中で、日弁連は福井宣言を行ったのですが、死刑廃止は、弁護士会だけで実現できる課題ではありません。死刑廃止に賛否両論あるとしても与野党を問わず国会議員の皆さんや、法務省の皆さん、研究者の皆さん、宗教界の皆さん、マスコミの皆さんや、多くの市民の皆さんとともに、社会全体で大いに議論をする必要があります。
  世界は激動し、国家、民族、人種を問わずお互いの寛容さを失いつつあるように見えます。日本もその流れに巻き込まれていくわけですが、そのような時だからこそ、寛容な社会の実現に向けて努力したいと思います。                                                          以上

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