本当に日本には死刑は必要なの?

千葉景子法務大臣にお会いして死刑執行停止を要請してきました

りす

本日、私は、日弁連の死刑執行停止実現委員会の事務局長として千葉景子法務大臣にお会いし、死刑の執行を停止するよう要請してきました。千葉大臣のことは、以前から存じ上げているので、とてもにこやかに要請を聞いていただくことができました。

日弁連は弁護士の全員加盟制であり、なかには死刑存置論者や被害者支援をしている弁護士もいるが、日弁連全体としては正式に死刑は執行停止されるべきであると決めていること、その主な理由は二つあり、一つは世界が死刑廃止へと向かっていること(世界の3分の2は死刑を廃止・停止しており、韓国や台湾も執行停止していること)、もう一つは日本国内では死刑判決後に再審で無罪となった例が4件もあり足利事件や飯塚事件も考えると日本の刑事司法手続きには大きな問題があること(裁判員として死刑を言い渡した後、再審で無罪となるおそれもあり得ること)などをご説明しました。

日弁連の要請文は以下の通りです。ご一読いただければ幸いです。千葉大臣は、お立場上、死刑の執行を停止するとはおっしゃいませんでしたが、日弁連の立場には理解を示してくださいました。

2009年(平成21年)12月9日


死刑執行の停止について(要請)

第1 要請の趣旨
現状の死刑制度について,速やかに以下の措置をとられるよう要請する。
(1) 死刑冤罪事件を未然に防ぐため,緊急に以下の措置を講じること。
① 科学的に信頼性の高い方法によって再鑑定を受ける権利の確立
② 死刑確定者と弁護人等との秘密交通の確保
③ 再審請求における国選弁護制度の創設
④ 再審請求による死刑執行停止効の確立
(2) 上記4点をも含めた改善措置がとられるまでの間,死刑の執行を停止すること。

第2 要請の理由
1 我々の社会はかつて,4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について相次いで再審無罪判決が確定するという稀有な経験をした。本年6月23日にはいわゆる足利事件で無期懲役刑が確定した菅家利和氏に対する再審開始が決定されたが,菅家氏は捜査段階において他に2件の幼女殺害も自白させられており,誤って死刑が言い渡される危険も十分に存在した。そして現在,足利事件と同様に精度の低いDNA鑑定に基づいて死刑判決が言い渡され,昨年死刑が執行された飯塚事件についても注目が集まっている。このように,死刑事件にも誤判があることが明らかとなっていながら,過誤を生じるに至った制度上,運用上の問題点については抜本的な改善が図られておらず,誤った死刑の危険性は依然として存在する。
本年5月21日には裁判員制度が施行され,事案によっては一般市民が裁判員制度を通じて死刑判決の言い渡しに関わる可能性も生じるようになり,死刑制度に関する関心もかつてないほど高まりをみせている。

2 他方,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,拷問等禁止条約をはじめとした国際人権基準に違反した違法状態におかれ,特に過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなってきた。これらの問題点は,国連拷問禁止委員会勧告(2007年5月)や国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査総括所見(2008年10月)において,たびたび指摘され,改善を強く求められているところである。
国際社会からの批判は,死刑に直面する者に対する権利保障の面にとどまらない。特に,国際人権(自由権)規約委員会により,死刑廃止について,世論を理由に避けるのではなく前向きに検討することが勧告されたことは記憶に新しい。
これらの勧告の基礎にあるのは,死刑が最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり,死刑制度は人権にかかわる重大な問題であるという認識である。

 3 人権の問題は,世論や多数決により決せられるべきものではない。死刑制度とその運用に対する社会の関心が高まっている今,求められるのは,漫然と死刑の執行を継続することではなく,死刑制度の持つ問題点を徹底的に洗い出し,改革の方向性を探ることである。
こうした見地から,当連合会は,死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし,また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間,死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱しているものである。
民主党は,その政策集(INDEX2009)において,「国際的な動向にも注視しながら死刑の存廃問題だけでなく当面の執行停止や死刑の告知,執行方法などをも含めて国会内外で幅広く議論を継続」していくと掲げられている点は,まさに当連合会と共通の問題認識に基づいた政策方針といえる。
   しかし,旧政権下においては,当連合会の度重なる要請にもかかわらず,死刑の執行が繰り返され,ついに昨年は15名もの確定者に対し死刑が執行される異常事態が生じ,本年もすでに7名の死刑が執行されている。一連の死刑執行は,死刑制度をめぐる様々な問題点を十分に検討しないまま,いたずらに執行を急いだものとの批判を免れない。

4 当連合会はこれまで,虚偽自白の強要と冤罪を防ぐため,取調べの全面的可視化,代用監獄の廃止をはじめとする刑事司法制度の改革を求めてきたものであるが,とりわけ死刑制度については,誤った死刑執行による損害が回復不可能であることから,問題は極めて深刻であり,その解決へ向けて一刻の猶予も許されない状況にある。
また,より根本的な問題として,人の生命を究極的に奪う死刑という刑罰について,基本的人権の保障という見地から,その廃止の可能性をも含め幅広く問い直すための,開かれた議論を,十分に展開すべきときにきている。

以上の観点から,当連合会は,現状の死刑制度について,速やかに以下の措置をとられるよう,要請するものである。
(1) 死刑冤罪事件を未然に防ぐため,緊急に以下の措置を講じること。
① 刑事事件においては,科学的に精度の高い再鑑定を受ける機会の保障が必要であるところ,とりわけ死刑事件においては,科学的に信頼性の高い方法による再鑑定の機会を権利として確立すること
足利事件の再審開始決定は,過去に行われたDNA鑑定について,科学的に精度の高い再鑑定を行うことによって,その結論が覆ることがあることを示している。とりわけ,死刑事件については,誤った死刑執行による損害が回復不可能であることから,このような再鑑定を行うべき必要性が高い。しかしながら,過去の鑑定の際に鑑定資料がすべて費消されてしまっていれば,再鑑定自体が不可能となってしまう。そこで,科学的に精度の高い再鑑定を受けることを権利として確立することが必要である。アメリカでは,無実を訴える死刑確定者や受刑者に対し,法律上,DNA鑑定を受ける権利が認められており(「イノセンス・プロテクション・アクト」),この制度のもとで多数の再審無罪判決が言い渡されている。
② 死刑確定者と弁護人等との秘密交通を確保すること
「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」施行後も,死刑確定者と弁護人との接見には職員の立会いが原則とされており,秘密交通権が確保されていない。国際人権(自由権)規約の実施状況を審査する規約人権委員会は,日本の人権状況に関する審査の総括所見(2008年10月)において,死刑確定者と再審に関する弁護人等との間のすべての面会の厳格な秘密性を確保すべきであると勧告している。
③ 再審請求における国選弁護制度を創設すること
再審請求については,国選弁護制度が存在せず,実質的に弁護権が保障されているとは言い難い現状である。国連拷問禁止委員会は,第1回日本政府報告書審査の総括所見(2007年5月)において死刑判決確定後の国選弁護人へのアクセスの欠如につき懸念を表明している。
④ 再審請求による死刑執行停止効を確立すること
刑事訴訟法442条は,再審請求があったときは検察官は刑の執行を停止できるとしているにとどまり,必要的な刑の執行停止理由とはされていない。上述した両総括所見は,この点についても執行停止効を確保するよう勧告している。
(2) 上記4点をも含めた改善措置がとられるまでの間,死刑の執行を停止すること。

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