本当に日本には死刑は必要なの?

死刑制度に関する政府世論調査結果についての会長談話

りす
死刑制度に関する政府世論調査結果についての会長談話
 
 
 
本年1月17日、死刑制度に対する意識調査を含む「基本的法制度に関する世論調査」の結果が公表された。
調査結果を見ると、死刑制度に関し、「死刑は廃止すべきである」と回答した者が9.0%(前回調査9.7%)、「死刑もやむを得ない」と回答した者が80.8%(前回調査80.3%)となっている。
 
 
この数字だけに着目すると、国民の大半が死刑に賛成しているかのように見える。しかし、「死刑もやむを得ない」と回答した者のうち、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答している者は39.9%にも上っているのであって、「将来」の死刑廃止の当否に対する態度という基準で分けてみると、廃止賛成は41.3%、廃止反対は44.0%となる。また、仮釈放のない終身刑が新たに導入されるならばどうかという問いに対しては、「死刑を廃止する方がよい」と回答した者が35.1%、「死刑を廃止しない方がよい」と回答した者が52.0%となっている。これらの数字を踏まえるならば、上記9.0%対80.8%という回答比率をもって死刑廃止賛否の態度を表す数字と評価することは不適切である。さらに、「死刑もやむを得ない」かつ「将来も死刑を廃止しない」を選択した者のうち20.5%もの者が、終身刑が新たに導入されるならば、「死刑を廃止する方がよい」と回答している。
 
 
世論調査の結果を分析すると、「死刑もやむを得ない」と回答した者を一括りにすることはできず、むしろ将来の死刑存廃に対する国民の態度は拮抗していると評価すべきである。死刑制度に関する世論を更に幅広く正確に把握するためには、当連合会が2018年7月に内閣総理大臣及び法務大臣に提出した「arrow 死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書」(2018年6月14日公表)において指摘したように、質問表現の修正や質問の追加等を行う必要がある。
 
 
当連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「arrow 死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。2019年10月15日には、「arrow 死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を取りまとめ、死刑制度廃止のための法改正の要点並びに死刑の代替刑及びその減刑手続制度の内容に関して検討すべき主な事項を公表したところである。
 
 
このような経過の中で、当連合会は、政府に対し、再三にわたり、日本において国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることなどを求めてきた。ところが、政府は、世論調査の結果、すなわち、上記「死刑は廃止すべきである」及び「死刑もやむを得ない」の各回答割合を根拠に、死刑廃止に関する国民的議論を喚起するような施策を取らないままである。
 
 
しかし、上記のとおり、今回の世論調査の結果をもって国民の多数が死刑制度に賛成しているなどと単純に結論付けることはできない。死刑廃止が国際的潮流となっている中で、死刑制度に関する情報公開も進めることなく、世論調査の結果を根拠に死刑廃止に関する議論をしようとしない政府の態度は直ちに改められるべきである。
 
 
当連合会は、改めて、政府に対し、死刑執行の実態(基準、手続、方法等)や死刑確定者に対する処遇、死刑廃止国における犯罪に関する統計等、死刑制度に関する情報を国民に広く公開し、死刑制度の廃止及び関連する刑罰制度の改革を進めるように求める次第である。
 
 
 
 2020年(令和2年)1月23日
 
日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎
 
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