Q&A

死刑にしてもやむを得ない?

うーんと。
無実の罪の人を死刑にしてはいけないけれど、殺人事件を起こしたことが明らかで、犯人も認めている場合には、死刑にしてもやむを得ないんじゃないのかな?
そう簡単ではないと思うよ。
日本では、これまで4つの死刑確定事件について長い間裁判で争った後、無罪判決が出ているけれど、事件当初は「殺人事件を起こしたことが明らか」だとほとんどの人が思ったんだよ。
うーんと。
どうしてそんなことが起こるの?
マスコミは大きく報道するし、被害者のご遺族は必ず犯人を捕まえて欲しいと願うよね。 警察の人も熱心に捜査するわけだけれど、犯人の疑いのある人を逮捕して、密室の取調室で長い時間「おまえがやったんだろう」と責めているうち、嘘の自白をする場合がある。
裁判官も人間だし、神様ではないから、誤った裁判をすることがあるんだよ。
でも、みんなが見ている前で人を殺して、自白している犯人もいるでしょ!?
たしかに、そういう事件もあるよね。
でも、死刑という制度を残しておくと、仮に大部分は犯人であることがあきらかな事件であったとしても、 何件かについては必ず誤判の危険性が残ることになるんだ。

死刑の誤判にはかけがえのない命が奪われてしまうという意味で取り返しがつかないからこそ、死刑制度そのものをやめようという議論になるんだよ。
日本の場合、すでに4件も死刑確定者の誤判が明らかになっているんだ。
うーんと。
誤った裁判がいけないのはわかるけれど、裁判が間違えるのは死刑だけじゃないし、どんな刑罰だって取り返しがつかないんじゃないの?
実際に言い渡される身になってみたら、死刑と懲役の誤判は大違いだと思わないかい? 死刑の場合、命がなくなってしまうんだよ。
後で、無罪だったことがわかって遺族が刑事補償金をもらっても、どうすることもできないでしょう。
それは、そうだよねっ!
無実の罪で懲役になるのはもちろん嫌だけれど、死刑になるのは絶対に嫌!

おひさま弁護士のよくわかる解説

「コラム 再審裁判で無罪が確定した人は4人だけ」でご紹介したように、日本では、1983年から89年にかけて、4つの死刑確定事件について、 再審による無罪判決がなされています(免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件)。

死刑執行の恐怖に耐えながら辛抱強く繰り返し再審請求を行い、20年以上もの長い年月をかけてようやく無罪判決を勝ち取っていきました。
そして無実の罪(冤罪)の疑いがあるのはこの4件だけではなく、現在も再審請求中の袴田事件や、 既に死刑が執行されているものの冤罪の疑いがあるといわれている飯塚事件など、様々な事件があります。

間違いなく犯人であることが明らかな事件ばかりではなく、必ず疑わしい事件が含まれていて、 裁判も人間のやることだから絶対ということはなく誤判がありえます。

死刑の場合、間違って有罪にして死刑を執行してしまえば、取り返しのつかない事態となってしまいます。
誤判の危険性は、死刑の場合だけではありませんが、ほかの懲役や罰金の誤判と死刑の誤判では、かけがえのない生命が奪われてしまうことになるという点で違いが明らかでしょう。

「誤判という意味では死刑も懲役も同じだ」「誤判の危険性は死刑廃止の理由にならない」という人もいますが、 実際に言い渡される側の身になってみれば、死刑の誤判と懲役の誤判の違いは明らかだと思います。誤判が明らかになれば刑事補償金が出ますが、死刑が執行されてしまってから遺族に渡されたとしても、どうしようもないでしょう。

死刑という制度を残しておくと、大部分は犯人であることがあきらかな事件であったとしても、 何件かについては必ず誤判の危険性が残ることになります。そして死刑の誤判はかけがえのない命が奪われてしまうという意味で取り返しがつきません。だから死刑制度そのものをやめようという議論になるわけです。

そして死刑の代わりの刑罰として終身刑を考えようという議論につながっていくわけです。「日本に終身刑はないの」を読んでくださいね。★日弁連「死刑を考える」ホームページ

「死刑事件にえん罪はないのでしょうか?-えん罪と死刑」

日本弁護士連合会:死刑廃止を考える[Q12] (nichibenren.or.jp)

おひさま弁護士コラム

★コラム 再審裁判で無罪が確定した人は4人だけ

日本では死刑が確定したあとに再審によって無罪となった事件がこれまでに4件あります。免田事件(23歳で逮捕、再審無罪まで約34年6カ月)、財田川事件(19歳で逮捕、再審無罪まで約33年11カ月)、島田事件(25歳で逮捕、再審無罪まで約34年9カ月)、松山事件(24歳で逮捕、再審無罪まで約28年7カ月)ですが、日本の刑事裁判の手続きではこのように信じられないほど長時間を要するのです。
日本の捜査手続きには弁護士が取り調べに立ち会うことができない、捜査官の求める事実を認めるまで保釈されず自白を強要される、捜査側の持っている証拠が弁護士に十分開示されないなど多くの問題がありますし、いったん刑が確定した後の再審裁判の手続きにも様々な問題があります。
これら4事件は1980年代に再審が開始されており、今から40年も「昔」の話しです。
しかし誤判の危険性と再審裁判の異常な長期化は、4件の再審無罪から40年経過した「今」も同様です。
袴田事件は1966年に起きた事件ですが、犯人とされた袴田巌氏は、当時30歳でした。2014年に静岡地裁で再審開始決定がでて釈放されたのですが、逮捕から釈放まで約48年を要し、釈放時は78歳でした。しかも、その後、東京高裁が2016年に静岡地裁の再審開始決定を取消、現在、最高裁に係属中です。袴田巌氏は、長期間にわたる死刑執行の恐怖と、昼夜間独居拘禁の中での収容により、心身を病んでしまいました。

また名張事件の奥西勝氏は、第一審の津地裁で無罪となったものの、控訴審の名古屋高等裁判所で逆転死刑となり、その後再審請求を繰り返したのですが、2015年10月、再審請求中に亡くなってしまいました。
そのほかに、飯塚事件では、無実を主張し、再審請求の準備中であったにもかかわらず、死刑確定からわずか2年で死刑が執行されてしまいました。
このように日本の死刑確定者で、再審裁判で無罪となった人は4人しかいないのですが、本当は無実だったにもかかわらず、誤って死刑が執行されてしまった人が、実際には数多くいるのではないでしょうか。