日弁連 罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言

2011年10月10日

罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言

 日本弁護士連合会は、2011年(平成23年)10月7日、第54回人権擁護大会において、「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を行いました。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2011/2011_sengen.html

 この宣言は、提案理由で、この社会に「生まれながらの犯罪者」はいないのであり、我々は「全ての人間は人間である」(オスロ大学ニルス・クリスティ教授)ことを決して忘れてはならない、刑罰の目的は応報だけではなく、「受刑者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含むものでなければならない」と述べ、宣言本文で、「今、我が国の社会に求められていることは、罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく、処遇や更生制度を根本的に改革し、福祉との連携を図り、すべての人々が共生することが可能な社会の実現を目指すこと」であると述べています。

 また、提案理由で、国際人権(自由権)規約が、すべての人の「生命に対する権利」の保障を定め死刑制度は廃止することが望ましいことを示しており、国際人権(自由権)規約委員会が、日本に対し2008年10月「世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し」、「国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」と勧告していることを誠実に受け止めるべきであり、日弁連は、「死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止についての全社会的議論を直ちに開始することを呼びかける必要がある」と述べています。

 このような提案理由から、日弁連は下記の宣言を行いました。今後は、国会議員、法務省、マスコミを含め、「死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける」活動を行うことになります。


宣言本文

 裁判員制度において、市民が刑事裁判に参加し、事実認定と量刑のいずれについても関与することとなり、死刑を含む刑罰について市民の関心は高まっている。しかし、犯罪とは何か、刑罰とは何かについて、市民の間に必ずしも十分な議論がなされてはいない。「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(世界人権宣言第1条)にもかかわらず、現実の社会には様々な差別があり、数多くの人々が貧困を強いられ、不合理な制約の下で自由、尊厳、権利を奪われている。そして、ごく軽微な犯罪から、死刑が言い渡されるような重大な犯罪に至るまで、犯罪の背景にはこうした問題が少なからず存在している。犯罪には、様々な原因がある。応報として刑罰を科すだけでは、犯罪を生み出す諸問題の解決には全く不十分であるばかりか、真に安全な社会を実現することもできない。


 確かに、罪を犯した人にその罪責に応じた制裁を科すことは刑罰の重要な目的である。しかし、今日我が国では、刑罰の目的が応報のみにあるかのように受け止められ、犯罪の背後にある様々な問題から目をそむけ、罪を犯した個人にすべての責任を負わせるべく刑罰を科そうとする風潮が強い。のみならず、近時の犯罪統計によれば、凶悪犯罪が増えておらず、犯罪数自体も減少傾向にあるという客観的な事実が存するにもかかわらず、近年、立法による法定刑の引上げ、刑事裁判における重罰化などの刑事司法全般において厳罰化が進み、その一方では、刑事施設において十分な更生のための処遇がなされず、罪を犯した人が更生し社会に復帰する機会が与えられていない。


 我が国では、刑罰制度として死刑制度を存置している。死刑はかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、以上述べた更生と社会復帰の観点から見たとき、罪を犯したと認定された人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという根本的問題を内包している。我が国も批准している国際人権(自由権)規約第10条第3項は、「行刑の制度は、受刑者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む」としている。重大な罪を犯した人も、最終的には社会へ再統合される可能性があることを認め、その更生を視野に入れた効果的処遇を行うことが、国家の責務である。今、我が国の社会に求められていることは、罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく、処遇や更生制度を根本的に改革し、福祉との連携を図り、すべての人々が共生することが可能な社会の実現を目指すことである。


 かねてより、死刑制度については様々な問題点が指摘されている。すなわち、これまでに4件の死刑判決が再審により無罪となったことからも明らかなように、常に誤判の危険を孕んでおり、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかないという根本的な欠陥がある。さらに、我が国では、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階に至るまで十分な弁護権、防御権が保障されておらず、執行の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。そして、死刑は人の生命を確実に奪い生命に対する権利を侵害するもので、いかなる執行方法であっても、その残虐性は否定できない。であるからこそ、死刑の廃止は国際的な揺るぎない潮流となっているのである。これらのことを考えるとき我々は、今こそ死刑の執行を停止した上で、死刑の廃止についての全社会的議論を行うべきである。特に、成育環境の影響が非常に強い少年の犯罪について、すべての責任を少年に負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正ではないことに留意するべきである。


 ここに、当連合会は、国に対し、以下のとおりの施策の推進ないし実現を求める。
1 刑罰として、不必要な拘禁を行わないための有効な施策を充実させること。
2 刑罰として拘禁を行う場合には、社会への再統合を円滑に図るため有効な処遇を積極的に行うべきであり、矯正と保護の連携及び担い手の育成と専門性の確保、自立更生促進センターや就業支援センターの拡充等を図ること。
3 有期刑受刑者に対しては、仮釈放を可能な限り積極的に実施し、かつ早期の仮釈放を実現すること。仮釈放後は、社会内における指導の充実化を図ること。無期刑受刑者に対しては、無期刑が終身刑化した現状を打開するため抜本的な制度改革を行うこと。
4 罪を犯した人の円滑な社会復帰を支援するため、矯正・保護部門と福祉部門との連携を拡大強化し、かつ、福祉の内容を充実すること。
5 罪を犯した人の社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について、直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し、その議論の間、死刑の執行を停止すること。議論のため死刑執行の基準、手続、方法等死刑制度に関する情報を広く公開すること。特に犯罪時20歳未満の少年に対する死刑の適用は、速やかに廃止することを検討すること。
6 死刑廃止についての全社会的議論がなされる間、死刑判決の全員一致制、死刑判決に対する自動上訴制、死刑判決を求める検察官上訴の禁止等に直ちに着手し、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権を保障し、かつ死刑確定者の処遇を改善すること。


 当連合会は、罪を犯した人も、個人の尊厳と基本的人権が尊重され、社会復帰への道が確保されるよう全力で取り組むとともに、死刑廃止についての全社会的な議論を直ちに開始することを呼びかけるものである。
 以上のとおり宣言する。

2011年(平成23年)10月7日
日本弁護士連合会


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