2011年(平成23年)は死刑執行ゼロ 法務大臣に死刑執行の義務はない

2011年12月30日

2011年(平成23年)は死刑執行ゼロ 法務大臣に死刑執行の義務はない

 まだ12月31日まで1日ありますが、今年は、死刑の執行が1月1日から12月31日まで年間を通して1件もないであろうと思われます(良かった良かった)。江田前法務大臣、平岡現法務大臣が死刑を執行しなかったことが理由です。日本では、1989年(平成元年)11月に死刑が執行された後、1993年(平成5年)3月に執行が再開されるまで約3年4ヶ月間死刑の執行が停止されている時期がありました。しかしその後は毎年死刑が執行され、年間を通して執行されなかった年は平成4年から数えて実に19年ぶりとなります。千葉元法務大臣が死刑を執行したのは、2010年(平成22年)7月ですから、現在まで約1年5ヶ月死刑の執行がなかったことになります。日弁連は、この間、死刑の存廃について国民的議論を尽くすまで死刑の執行を停止するよう歴代法務大臣に繰り返し要請してきました。とくに今年の人権擁護大会において、「死刑のない社会が望ましいことを見据えて死刑廃止について全社会的な議論を呼びかける」方針を明確にしてからは、精力的に、法務大臣に働きかけてきました。
 法務大臣の死刑執行義務については、下記のように法務大臣がえん罪による死刑執行のおそれや絞首刑の残虐性を考え、死刑の廃止について国民的議論を行うあいだ死刑の執行を停止しても、義務違反にはならない。法務大臣には死刑の執行を命令するべき義務はないと提起してきました。

1 えん罪による死刑執行のおそれ
・えん罪が再審裁判で明きらかになった死刑事件
   免田事件   財田川事件   松山事件   島田事件
・えん罪である疑いが強く日弁連が再審を支援している死刑事件
   名張毒ぶどう酒事件  袴田事件 など
・えん罪であることが再審裁判で明らかになった無期懲役の事件
   足利事件   布川事件
・えん罪により誤って死刑が執行されてしまった疑いのある事件
   藤本事件  福岡事件  飯塚事件

2 絞首刑の残虐性
・平成23年10月31日に大阪地裁で死刑判決が言い渡されたパチンコ店放火殺人事件の審理において、自らも死刑の求刑及び死刑執行への立会いの経験を有する土本武司元最高検検事が「受刑者に不必要な肉体的、精神的苦痛を与える」もので憲法36条が絶対に禁止する残虐な刑罰に「限りなく近い」と証言している。
・同事件の判決も、「絞首刑には、前近代的なところがあり、死亡するまでの経過において予測不可能な点がある」として、その問題点を指摘している。

3 刑事訴訟法475条1項は、「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」と定め、同条2項は、「前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが、同条2項は法的拘束力のない訓示規定であり(東京地方裁判所平成10年3月20日判決)、法務大臣が上記事情に鑑み、死刑の廃止について国民的議論を行うあいだ死刑の執行を停止しても、義務違反にはならない。法務大臣には死刑の執行を命令するべき義務はない。

 今年死刑が執行されなかったことは、死刑廃止を求める国内、国外様々な運動の成果ですが、来年の政治情勢次第でいつでも死刑執行があり得ます(死刑の廃止はまさに政治的なリーダーシップによって実現されるべきものですが、そのことは政治情勢次第で、いつでも死刑の執行があり得ることを意味しています)。何としても死刑の執行を再開させないことが重要ですが、そのためには、死刑廃止について国民的議論をするための公の場を作り出すことが必要です。死刑の廃止は世論調査の結果によるべきものではなく、十分な情報を国民に公開したうえで、国際人権法(生命に対する権利)の尊重やえん罪による執行のおそれ、絞首刑の残虐さ、死刑に代わる最高刑、罪を犯した人の社会復帰の可能性などについて公の場で議論を交わし決定するべき問題なのです。裁判員裁判を通じて、死刑について国民の関心も高まっています。現在、法務省の内部で、「死刑の在り方についての勉強会」http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji02_00005.htmlが開催され、日弁連も第3回にはヒアリングの際に意見を述べてきました。http://www.morino-ohisama.jp/blog/2010/11/post-25.html
 私は、この「勉強会」も一定の意義を有していると思うのですが、「公の議論」というにはほど遠いと言わざるを得ません。やはり法形式や名称は問わないものの、国会に死刑制度調査会のような組織をつくることが必要であって、議論をしている間は死刑の執行を停止することが重要です。これを実現するためには、日弁連が、死刑のない社会が望ましいことを明確に掲げながら、政党、国会議員、法務省、マスコミ、国民各層に働きかける必要があり、その活動のための委員会が日弁連死刑廃止検討委員会だと考えています。


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