日弁連 死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行 を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直 ちに講じることを求める要請書

2012年06月18日

本日、日弁連山岸憲司会長は、滝実法務大臣と直接面談し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直に講じることを求める要請書」を手渡しました。
死刑廃止検討委員会の田鎖麻衣子副委員長と事務局長である私も同席し、要請書の趣旨などについて補充して説明しました。
面談は約30分間くらいでしたが、日弁連としては、今後も、滝法務大臣が死刑の執行をしないよう、様々な機会をとらえて執行停止の要請を重ねる予定です。


弁連総45号
2012年(平成24年)6月18日
法務大臣 滝 実 殿
日本弁護士連合会
会長 山 岸 憲 司
死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行
を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直
ちに講じることを求める要請書
第1 要請の趣旨
1 死刑制度の廃止についての全社会的議論を行うため,以下の方策をとるこ
と。
(1) 死刑制度とその運用に関する情報を広く公開すること。とりわけ,政務三
役で行われている死刑執行の在り方に関する検討については,現在までの検
討状況を明らかにした上で,直ちに検討方法の抜本的見直しを行い,法務省
に有識者会議を設置する等の方策をとること。
(2) 上記の議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止すること。
2 死刑えん罪事件を未然に防ぐため,緊急に以下の措置を講じること。
(1) 科学的に信頼性の高い方法によって再鑑定を受ける権利の確立
(2) 死刑確定者と弁護人等との秘密交通の確保
(3) 再審請求における国選弁護制度の創設
(4) 再審請求による死刑執行停止効の確立
第2 要請の理由
1 当連合会は,死刑のない社会が望ましいことを見据えて,昨年10月7日,
第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立
を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択した。
我が国では,刑罰制度として死刑制度を存置しているが,死刑はかけがえの
ない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え,罪を犯した人の更生と社会
復帰の観点から見たとき,更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題
点を内包している。- 2 -
2 国際的にみた場合,2012年(平成24年)5月現在の死刑廃止国(10
年以上死刑を執行していない事実上の廃止国を含む。)は141か国,死刑存
置国は57か国であって,世界の3分の2が死刑を廃止ないしは停止してい
る。死刑存置国の中でも実際に死刑を執行している国は更に少なく,2010
年(平成22年)が23か国,2011年(平成23年)が20か国にすぎな
い。死刑廃止が国際的にも大きな潮流であることは明らかであり,隣国の韓国
は既に14年間死刑の執行を停止し,事実上の廃止国として数えられている。
2010年(平成22年)12月21日には,国連総会において死刑執行の
一時停止を加盟国に求める3度目の決議が前回を上回る109か国の賛成多
数で採択されたが,反対票を投じた国は日本を含めて41か国にとどまった。
本年は第4回目となる決議が予定されており,賛成票はさらに増え,逆に反対
票は減少する見込みである。こうした状況において,我が国の死刑制度は国際
人権法の観点から様々な批判を浴びてきた。すなわち,「死刑の執行をすみや
かに停止」すべきであるとする国連拷問禁止委員会の勧告や,国連人権理事会
による勧告のほか,国際人権(自由権)規約委員会からは,「世論調査の結果
にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきことが勧告されている。
のみならず,日本の死刑制度は,死刑判決に対する必要的な上訴制度がないこ
と,死刑確定者からの再審請求や恩赦の申立てに執行停止の効力がないこと,
死刑執行の対象とされる者の精神障がいの有無についての制度的な審査が保
障されていないこと,死刑執行の事前の告知がないこと等の点においても,国
際人権基準に大きく違反していることが指摘されてきた。
アジア諸国も含めて,世界が死刑執行の縮小から死刑廃止へと向かう情勢に
おいて,日本における死刑制度の存置と継続的な死刑執行は,国際的に大きく
注目され,批判の的となってきた。
とりわけ,本年3月29日に民主党政権下で1年8か月ぶり,2度目に行わ
れた小川敏夫法務大臣(当時)による3名の死刑確定者に対する死刑執行は,
国際社会に非常に大きな衝撃を与えた。この死刑執行は,前任者である平岡秀
夫法務大臣(当時)による,死刑の存廃についての「有識者会議」構想を中止
し,さらに千葉景子法務大臣(当時)が2010年(平成22年)に設置した
「死刑の在り方についての勉強会」すら打ち切った上で強行されたものであ
り,死刑存続へ向けた強い意思表示と受け止められたと言っても過言ではな
い。
本年10月には,国連人権理事会において日本の人権状況に関する第2回普
遍的定期的審査が,2013年(平成25年)5月には拷問禁止委員会による- 3 -
第2回の日本政府報告書審査が予定されている。死刑制度の維持に固執する日
本政府のかたくなな姿勢に対して,さらに強い批判が集中することは,避けら
れない情勢となっている。
3 他方,死刑制度にはえん罪による誤った刑の執行が不可避であり,日本も決
してその例外ではない。
すなわち,我が国では,死刑事件について既に4件もの再審無罪判決が確定
しており(免田・財田川・松山・島田各事件),死刑事件においても誤判が存
在したことが明らかとなっている。また,死刑事件ではないものの近時におい
ても,足利事件について宇都宮地方裁判所は2010年(平成22年)3月2
6日に,布川事件について水戸地方裁判所土浦支部は2011年(平成23年)
5月24日に,それぞれ再審無罪判決を言い渡した。さらに本年6月7日には,
東電OL殺人事件について東京高等裁判所が再審開始決定を出した。併せて,
刑の執行停止決定を行い,それに対する検察側の異議も退けて釈放したことに
より,無罪判決が確実な状況となった。
このうち,足利事件は,捜査機関と裁判所が当時の精度の低いDNA型鑑定
を過大評価し,自白を偏重して適正な判断をしなかったこと,裁判所が長い間
DNA再鑑定を拒否したこと等,複合的な問題が顕在化した事件であるが,最
終的に無罪となった菅家利和氏は,捜査段階で複数の被害者殺害について自白
を強要されており,死刑事件となるおそれも十分にあった事件である。これら
の事件以外にも,死刑事件である名張毒ぶどう酒事件や袴田事件は,えん罪で
ある疑いが強く,当連合会はその再審を支援している。
こうした数々の誤判事例,とりわけ死刑えん罪事件が生じてきた事実にもか
かわらず,誤判原因の解明とその防止のための抜本的対策は,なんらとられな
いまま数十年もの年月が経過してきた。
こうした状況下においては,えん罪による死刑執行のおそれは現実のものと
なっている。例えば,2008年(平成20年)には,足利事件と同様に精度
の低いDNA型鑑定等に基づき有罪とされ死刑が言い渡された飯塚事件につ
いて,再審請求の準備中にもかかわらず死刑が執行され,各方面から疑問の声
が上がった。一旦失われた命は金銭で補償することはできず,回復不可能なも
のである。我が国が死刑制度を維持し執行を継続する限り,常にその危険が内
在しているものと言わざるを得ない。
そこで,死刑えん罪を未然に防ぐためには,緊急に以下の措置を講じる必要
がある。
(1) 刑事事件においては,科学的に精度の高い再鑑定を受ける機会の保障が必- 4 -
要であるところ,とりわけ死刑事件においては,科学的に信頼性の高い方法
による再鑑定の機会を権利として確立すること。
足利事件の再審開始決定は,過去に行われたDNA鑑定について,科学的
に精度の高い再鑑定を行うことによって,その結論が覆ることがあることを
示している。とりわけ,死刑事件については,誤った死刑執行による結果が
回復不可能であることから,このような再鑑定を行うべき必要性が高い。し
かしながら,過去の鑑定の際に鑑定資料がすべて費消されてしまっていれ
ば,再鑑定自体が不可能となってしまう。そこで,科学的に精度の高い再鑑
定を受けることを権利として確立することが必要である。アメリカでは,無
実を訴える死刑確定者や受刑者に対し,法律上,DNA鑑定を受ける権利が
認められており(「イノセンス・プロテクション・アクト」),この制度の
下で多数の再審無罪判決が言い渡されている。
(2) 死刑確定者と弁護人等との秘密交通を確保すること。
「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」施行後も,死刑確定
者と弁護人との接見には職員の立会いが原則とされており,秘密交通権が確
保されていない。国際人権(自由権)規約の実施状況を審査する国際人権(自
由権)規約委員会は,日本の人権状況に関する審査の総括所見(2008年
(平成20年)10月)において,死刑確定者と再審に関する弁護人等との
間のすべての面会の厳格な秘密性を確保すべきであると勧告している。
(3) 再審請求における国選弁護制度を創設すること。
再審請求については,国選弁護制度が存在せず,実質的に弁護権が保障さ
れているとは言い難い現状である。国連拷問禁止委員会は,第1回日本政府
報告書審査の総括所見(2007年(平成19年)5月)において,死刑判
決確定後の国選弁護人へのアクセスの欠如につき懸念を表明している。
(4) 再審請求による死刑執行停止効を確立すること。
刑事訴訟法第442条は,再審請求があったときは検察官は刑の執行を停
止できるとしているにとどまり,必要的な刑の執行停止理由とはされていな
い。上述した両総括所見は,この点についても執行停止効を確保するよう勧
告している。
4 こうした状況下において今,求められているのは,我が国の死刑制度が持つ
様々な問題点を,ひとつひとつ包み隠さず明らかにした上で,果たしてそれら
の問題点を克服することが可能なのか否か,過去に実施された死刑執行の実態
を含め,事実に基づいた研究および議論を徹底して行うことである。
そのためには,死刑制度に関する情報が公開され,議論に供されることが不- 5 -
可欠の前提であるところ,情報公開はいまだにほとんど進んでいない。その状
況は,2010年(平成22年)8月に東京拘置所の刑場が一部マスメディア
に公開された後も基本的に変わらないままである。
こうした,死刑制度を覆う秘密主義こそ,我が国の死刑をめぐる最大の問題
点の一つである。当初,上記「勉強会」の検討課題であった死刑の執行方法に
ついては,法務省の政務三役会議において,いわば密室での検討がなされてい
ると伝えられている。しかし,いかなる事実をもとに,どのような議論がなさ
れたかも全く不明なままの状況では,真摯かつ徹底した議論など期待すること
はできず,また,その検討結果を信頼することなどできない。
5 我が国は,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」
すべきであるとの国際社会からの勧告に直面している。現在,政府や国会にお
いて,この勧告内容を実現する動きは存在しないが,我が国が批准した人権条
約の実施について,条約実施機関から受けた勧告の実現に向け努力すること
は,国家としての責務である。
法務省内部の担当者からなる会議においては,死刑制度の根幹を問う議論を
行うことはできない。先の「勉強会」が極めて不十分な結果に終わったことに
よって実証されたとおりである。たとえば,死刑の犯罪抑止力について,「勉強
会」の取りまとめ報告書では,死刑廃止論・存置論双方の立場からの主張が紹
介されているにすぎず,自殺願望のある者が死刑に処せられることを求めて殺
人を犯すという類型の事件について,十分に議論された形跡がない。しかし,
現実に我が国においても,自殺願望を動機の一つとする大阪教育大附属池田小
事件,土浦連続殺傷事件等の事件があり,本年6月10日に大阪市の繁華街に
おいて惹き起こされた通り魔事件も同様の動機によるものと報道されている。
同種事件の防止という観点からも,死刑制度の存在がこれらの事件発生に与え
た影響について,徹底的な検証がなされる必要がある。
こうした死刑制度の様々な問題点を検討するという見地からは,政務三役に
よる協議ではなく,法務省に有識者会議を設置し,国民各層からの意見を聴取
して,死刑制度の問題点を明らかにすることが急務である。
6 そして,死刑制度の在り方について広く冷静な議論を進めていくために,死
刑の執行は,すみやかに停止されなければならない。死刑の執行が継続される
以上,制度を運用する側は,現に行われ,行われようとする死刑執行の正当性
と妥当性の説明に汲々とし,制度の根幹に迫る本質的な議論は回避されてしま
うからである。この理は,本年3月29日に行われた死刑執行と,それに伴っ
て法務省内での議論が収束されていった経過をみても明らかである。また,死- 6 -
刑執行停止は,名張毒ぶどう酒事件などえん罪が強く疑われる死刑確定者の死
刑の執行を未然に防止するために,緊急に実施するべきである。
7 滝実法務大臣は,死刑の執行を停止した上で,現在省内で進行している検討
状況を明らかにし,直ちに検討方法の抜本的見直しを行い,死刑制度の廃止に
ついての全社会的議論を行い,かつ,死刑えん罪事件を未然に防ぐため,上記
各方策をとるべきである。


また,要請書提出後,法曹記者クラブにおいて記者会見を行いましたが、下記の記事が配信されました。


◆ 法相に死刑執行停止を要請=情報公開も求める―日弁連

時事通信 6月18日(月)19時4分配信

日弁連の山岸憲司会長は18日、法務省を訪れ、死刑制度の廃止について議論が尽く
されるまでの間、死刑の執行停止を求める要請書を滝実法相に提出した。

要請書は、死刑制度について「非人道的な刑罰であり、社会復帰の可能性を完全に
奪う」と指摘。死刑廃止が国際的な潮流となっていることや、冤罪(えんざい)に
よる執行の恐れがあることを挙げ、より一層の情報公開や、科学的な再鑑定を受け
る権利の確立などを求めた。




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