世論調査の結果は、死刑存続が5割前後、廃止+将来廃止が3割強

2012年12月12日

 日弁連は平成24年11月27日、社会調査のデータ解析を専門とする静岡大学情報学部山田文康教授の「死刑制度に関する世論調査についての講演会」を開催しました。
 山田教授の講演は、「2009年(平成21年)12月に実施された内閣府の「基本的法制度に関する世論調査」では,
①『どんな場合でも死刑は廃止すべきである』
②『場合によっては死刑もやむを得ない』
のどちらの意見に賛成か、との質問に対する回答比率が,
①5.7%,
②85.6%
となったと報告された。
 この世論調査の結果は,死刑存置の根拠として用いられることが多く,マスコミにおいても同様の報道がなされている。
 しかし,これについては、設問が死刑存置へと誘導するものである等の批判がある。
 そこで、本講では、世論調査(標本調査)に基づいて主張を展開する場合の留意点について解説し、さらに上記の設問の意味を、取得された時系列データの解析結果を通して考察する。」ものです。
 以下講演内容の概略を、私の理解できた限度でお伝えしたいと思います。いずれ日弁連から、もっと正確な報告書が出るとは思いますが。私のコメントは★をつけておきます。

○標本調査とは
 調査の対象である全体集団を「母集団」と呼ぶ。一般に母集団は極めて大きいため、母集団から少数の「標本」を抽出し、その標本を調査することによって母集団の状況を調べることになる。これを標本調査と呼ぶ。

○標本データからの一般化
「標本データ」は、「2009年(平成21年)12月に実施された内閣府の「基本的法制度に関する世論調査」(標本数3000)では、「以下のいずれの意見に賛成か」との問に対する回答比率が次のように得られた。
①『どんな場合でも死刑は廃止すべきである』5.7%,
②『場合によっては死刑もやむを得ない』85.6%」

この「標本データ」からの一般化について、
①母集団への一般化
②質問項目から一般的表現へ
を検討する。

 質問項目は、以下で表現されている内容を正しく測定しているか? 測定の信頼性と妥当性の問題
 「20歳以上の日本国民の、8割以上は、死刑制度を容認している。」

○母集団への一般化
 母集団への一般化が妥当性を持つためには、標本は母集団の縮図であることが必要であり、そのためには以下の条件が満たされていることが必要である。
①無作為抽出の手続きに従って標本が抽出されていること
②回収率が十分に高いこと
③回収標本に偏りがないこと

①は問題ないと考えられる
②、③については状況は厳しい
★理由の詳細も山田教授は述べていらっしゃるのですが、ここでは省略します。

○質問項目から一般的表現へ
Q死刑制度に関して、このような意見がありますが、あなたはどちらの意見に賛成しますか
①『どんな場合でも死刑は廃止すべきである』5.7%,
②『場合によっては死刑もやむを得ない』85.6%
→20歳以上の日本国民の8割以上は、死刑制度を容認している

 容認比率を測定するとすれば、死刑制度に対する態度尺度として「評定カテゴリ」(反対 どちらかと言えば反対 どちらとも言えない どちらかといえば賛成 賛成)を設定し、容認率を検討する必要がある

 質問項目から、「容認」への一般化には問題があり、「容認」を議論するのであれば、質問項目は妥当性に欠けるのではないか

○死刑制度に関する質問に対する回答の年度変化
★省略します

○死刑制度に関する質問に対する回答の年度変化
1975年変化について
★省略します

○1975年の変化について
★省略します

○死刑制度に関する質問に対する回答の年度変化
1994年の変化について
★省略します

○死刑制度に関する質問に対する回答の年度変化
質問項目の変更
1989年まで
どんな場合でも死刑を廃止しようという意見にあなたは賛成ですか、反対ですか
賛成
反対
わからない

1994年以降
死刑制度に関して、このような意見がありますが、あなたはどちらの意見に賛成しますか
どんな場合でも死刑は廃止すべきである
場合によっては死刑もやむを得ない
わからない

死刑制度に関するサブ・クエスチョン(1967年から)
賛成 死刑は廃止すべきである
・すぐに、全面的に廃止
・だんだん死刑を減らしていき、いすれ全面的に廃止する
反対 死刑もやむを得ない
・将来も死刑を廃止しない
・(状況が変われば)将来的には死刑を廃止してもよい
()は1994年から追加

○サブ・クエスチョンに対する回答の年度変化
死刑廃止反対 死刑もやむを得ない
「漸次廃止」賛成者が1994年で20パーセント程度増加
1994年から「漸次廃止」には「条件が変われ・・・」が追加され、回答しやすくなった
 死刑制度に対する質問の変化が影響した可能性がある
 回答カテゴリ「死刑もやむを得ない」が受け入れられ易いカテゴリであるため、このカテゴリへの賛成者が増加した
 しかし、本来は「死刑反対」意識を持つ層であるため、「漸次廃止」に賛成する傾向が強く、それがこのカテゴリへの回答の増加をもたらした

○サブ・クエスチョンに対する回答の年度変化
 どんな場合でも死刑は廃止すべきである
「すぐに全面廃止」賛成者が1994年で20パーセント近く増加
 死刑制度に対する質問の変化が影響した可能性がある
 回答カテゴリ「死刑もやむを得ない」が受け入れられ易いカテゴリであるため、このカテゴリへの賛成者が増加した
 そのため、「死刑反対」意識をより強く持つ層の比率が「反対」群で高くなり、それが「すぐに全面的廃止」への回答比率の増加をもたらした

○質問項目から一般的表現へ
 サブ・クエスチョンの回答結果から
1989年まで「賛成/反対」で回答を求めた
1994年から『どんな場合でも死刑は廃止すべきである』『場合によっては死刑もやむを得ない』

 2つの意見を分ける境界点は、質問項目の変更で「死刑反対」の方向に移動したと考えるのが自然である
★「死刑反対」の方向に移動したとは、死刑賛成の意見が多くなる方向へ移動したとの趣旨です

 その意味でも、「20歳以上の日本国民の8割以上は、死刑制度を容認している」との一般化には無理がある

○死刑制度に関する質問に対する回答の年度変化
 サブ・クエスチョンも加えた回答結果の整理
 賛成・死刑は廃止すべきである◆すぐに、全面的に廃止→廃止
               ◆漸次廃止する→廃止の方向
 反対・死刑もやむを得ない  ◆将来的に廃止→廃止の方向 
               ◆死刑存続→存続
 存続が5割前後、廃止(廃止の報告)が3割強である
 主設問での回答に基づく議論(85.7%は死刑を容認)では不十分
「廃止/存続」の2分類では識別できない層についても、その意向を把握する必要がある。

 1989年以前では「わからない」の比率が高い。
 「賛成/反対」だけでは回答しにくく、場面・条件を具体的に設定することが必要

○他の調査との比較
★省略します

○他の調査との比較
一般的な質問文
★省略します

○まとめ
 標本データからの一般化という視点から、死刑世論調査の問題点について検討した
①母集団への一般化
回収率は約2/3であり、しかも回収標本は標本集団とは異なった属性構造を持つ
→回収標本は母集団の縮図とは言い難い
→「日本人の8割以上は・・・」と主張するのは難しい
 あくまでも、全体の傾向を探るための参考

②調査項目から一般的な表現へ
 死刑に対する態度尺度を想定した場合、「賛成/反対」を分ける境界点は、1994年の質問項目の変更で「死刑反対」の方向に移動したと考えるのが自然である。

 サブ・クエスチョンの分析から、死刑存続が5割前後、廃止+将来廃止が3割強である。
→「・・・の8割以上は、死刑制度を容認している」との一般化には無理がある。

○より詳細な分析のために
 提供されているのが単純集計であるため、議論を深めることができない。例えば、死刑廃止の比率に変化があった場合、それが主として、どのような属性で、どのような考え方を持つ回答者で起こっているのかを明らかにできれば、その変化の意味を把握することができる。
 また、死刑に賛成の回答者の他の質問への回答傾向を分析できれば、質問の意味と回答者の捉えている「死刑」の意味をより詳細に分析できる。そのような環境が必要である。


★死刑廃止を議論するにあたり、とても有益な講演だったと思います。
 とくに私が重要であると思った点は、
①山田教授によれば、「場合によっては死刑もやむを得ない」が受け入れられ易いカテゴリであるため、それまでの調査に比べて死刑賛成者が増加したと考えるのが自然であるとのことでした。
 これはこの設問自体が、死刑賛成者を増加させる(誘導的である)ことを明らかにするものだと思います。
②また山田教授によれば、主設問での回答に基づく議論では不十分であり、サブ・クエスチョン(世論調査のサブ・クエスチョンの結果は、死刑反対のうち「すぐに,全面的に廃止する」35.1%,「だんだん死刑を減らしていき,いずれ全面的に廃止する」63.1%。死刑賛成のうち「将来も死刑を廃止しない」60.8%,「状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよい」34.2%でした)を分析すれば、「国民の8割以上は、死刑制度を容認している」との一般化には無理があり、「死刑存続が5割前後、廃止+将来廃止が3割強である」との指摘がなされたことです。
 この世論調査の結果を、専門家が分析すれば、「死刑存続が5割前後、廃止+将来廃止が3割強である」というのです。これは画期的なことだと思います(これまでにも同様の指摘はあったのですが、専門家が指摘したということが重要だと思います)。

 日弁連としても、この講演内容をふまえ、従前と同様の世論調査が行われマスコミで
報じられないよう(死刑存置の理由として用いられないよう)、内閣府、マスコミなどに対し、働きかける必要があると思います。

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