本当に日本には死刑は必要なの?

2014年に向けて

りす
2014年に向けて
 
1 昨年2012年は民主党政権により7名に対する死刑が執行され、今年2013年は自民党政権により8名に対する死刑の執行が行われました。死刑廃止・死刑執行停止には絶望的なようにも思えますが、このような中でも、やり続けるべきことはあると思います。
 世界の死刑廃止にいたる経緯を見ていると、政権交代がきっかけになっている場合(フランスや韓国)が多いようですし、えん罪による執行がきっかけになった場合(イギリス)でも、やはり議会での承認をへて廃止になっています。いずれにしても政治家のリーダーシップによるところが大きいわけですが、死刑廃止に関心をもつ政治家を見つけ、説得し、支えていくことが必要です。アメリカテキサス州では、終身刑が導入され、それも一つの経緯となって死刑の執行数が減っているのですが、終身刑導入にも政治家に対する粘り強い説得が必要だったようです。
 
2 私は日弁連死刑廃止検討委員会の事務局長をしているのですが、日弁連は、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止について全社会的議論を行うことを呼びかけています。
 実際に死刑制度をなくすには政府(法務省)や与党(自民党・公明党)に説明し、説得する必要があるわけで、私も、去年は民主党の政治家と会っていたのですが、今年は自民党や公明党の政治家と会っています。また法務省の方とも会っています。
 自民党の議員や法務省の方とお会いしていて感じることは、死刑廃止や執行停止そのものをテーマとしても、残念ながらすぐに反応することはないということです。
 しかし、再犯の防止については関心があるようです。皆さんは更生保護法という法律をご存じでしょうか。この法律は、第1条に目的として、「犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、恩赦の適正な運用を図るほか、犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。」とあります。
 犯罪をした人の社会復帰がうまくできるためには、本人の努力だけでは無理であり、社会の受け皿がどうしても必要ですし、刑務所内での処遇も「懲役」(強制的な労働)というだけでは無理です。福祉との連携も必要です。そして、社会復帰がうまくできれば、再犯の防止にもなるわけです。
 日弁連は、2011年に「罪を犯した人の社復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を行っており
そのなかで、「罪を犯した人の社会復帰という点から見たとき、社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、全社会的議論を開始することが必要である。」と述べています。
 この再犯防止、社会復帰の実現、刑罰制度全体の見直しという大きなテーマのなかで、政府与党や法務省とも、終身刑導入や死刑についても議論することが可能になるかもしれませんし、私としては、是非議論したいと思っています。
 
3 また私は、制度を変革するためには、国会や政府与党、法務省の委員会などでの公の議論(「公論」)が必要であり、世論調査の結果によるべきではないと思っています。死刑廃止についても、世論ではなく公論によるべきであり、政府がこれまで行ってきた世論調査の問題点について、日弁連は、「死刑制度に関する政府の世論調査に対する意見書」を公表しました。
 しかし、そうは言っても、死刑についての世論の動向は重要です。とくに死刑廃止に至った諸外国の例を見ていると、宗教界の動きが重要です。
 日本の場合には、やはり仏教界の動きが重要なわけであり、日弁連でも仏教界全体としての取り組みを求め、関係者との協議を重ねています。
 
4 欧州評議会では、日本に対し死刑廃止・執行停止を求める活動をここ数年強める動きがあるようです。今年も、いくつものシンポジウムが開かれました。しかしこの欧州からの動きが日本国内での運動とあまりうまく連動していないようにも見えます。日弁連としても、世界からの声を日本国内の運動にどうつなげていくかが、来年の課題の一つであると思います。
 
5 私個人としては、現在、二件死刑確定者の再審請求をしています。三件再審請求をしていたのですが、東京拘置所にいた宇治川正さんは、今年、病気で亡くなられました。死刑が確定してから執行までの期間はどんどん短くなっていますが、それだけではなく再審請求をしても審理期間が短くなり、拙速な棄却が多くなっています。このような動きの中で、死刑確定者を支えていくには支援者の皆さんとの協力が必要であることを痛感しています。
 
6 日弁連の死刑廃止検討委員会の事務局長としても、一弁護士としても、容易ならざる事は明らかなのですが、かといって絶望する必要もないと考えています。世界が死刑廃止に向かっていることは明らかなのであり、いつまでも日本だけが孤立しているわけにはいかないでしょう。ヨーロッパもアメリカもアジアも動いているのであり、政府与党の国会議員にしても法務省の方にしても、そのこと自体は理解している方がおり、議論の必要性自体は肯定しています。ただどのようにして公の議論の場、公の議論の土俵を作っていくのかはまだ見えていません。
 2014年に形にしていければと思っています。
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